怒涛の忙しさに、桜を愛でるのは野菜の配送途中の車窓からだけだ。毎日元気に働きに出掛けている三女は、会社の帰りに桜を愛でているようだ。晴れた日には自転車で、雨の日には会社から駅までを徒歩で４０分ほど掛けて歩いているらしい。その途中の川沿いに桜並木があり、いろいろな人を観察しながら帰り道を堪能しているというのだ。一日立ち仕事でケーキづくりの作業をひたすらこなし、足が疲れているのにまた歩く。歩くのが好きであることは、よいことだ。

　春だから暖かな気候になって、人間のみならず野菜たちも伸びやかだ。苗はすくっと成長し、すぐに畑への植え付け時となる。春だから、雨も多くなる。雨の合間を縫って畑を耕し、畝を立て、堆肥をまいて生分解マルチフィルムを貼る。雨の直前に慌てて苗を植えるのだ。昨日の雨の前にも、葉ものや、南瓜、ズッキーニを植えつけた。まだ南瓜の苗は残っている。モロヘイヤ、空芯菜、バジル、枝豆、スィートコーンなど出番を待っているが、出荷も忙しくて手が回らない。

　年度が変わり、四女は中学に入学して、書類などもいろいろ書かなくてはいけない。小学四年生になった長男は、サッカーの試合予定が次から次へと入ってくる。サッカーの試合には、連れ合いがビデオ撮影に帯同するために、野菜の出荷の具合も左右されるのだ。試合当番でなければ帯同する必要はない、と思う人もいるかもしれない。しかし、僕が出荷をするために試合を見ることができないので、ビデオ撮影は必要なのだ。その試合をあとから見ることで、練習方法をあれこれ考えるからである。

　地元の少年サッカーチームは、四年生も五年生も六年生もどのチームも弱い。長男がその三学年ともに出場する。試合がかち合うと、上の学年を優先して試合に出る。その他に、ひと月に一度のトレセンもあるし、平日の週一回はアカデミーの練習もある。ゴールデンウィークなんて、１１日中、チーム練習や試合のない日が２日間だけである。これでは、個人のスキルを伸ばす時間が少なくなるし、仕事への影響も大である。非常に頭を悩ますことになるが、なんとしても乗り切らなければいけない。野菜の出荷は、１年のうちでも多い季節なのだ。

　長男は、一番仲の良い友達Ｙ君と同じクラスになった。サッカー仲間でもある。今日は、学校から戻ってきて連れ立って図書館に行き、戻ってきて一緒にサッカーの練習をしている。サッカーは、一人だけ練習してもチームは勝てない。皆がそれぞれに練習してはじめて個の練習成果を発揮できるのだ。しかし、人様の子供を練習させることは親にはなかなかできない。子供同士で話して、意気投合して練習するようでなければスムーズにいかないものだ。

　二人が練習していれば、練習方法をアドバイスすることはできる。仕事の合間に駐車場へ行き、練習方法を伝えてまた仕事に戻る。これは自営業者ならではのことではある。長男は、練習しなければプロになれないことをわかっている。試合ばかりで、練習メニューをこなすことができないのは痛手になることもわかっているし、でも友達とも遊びたい。だから、そこは考えて、サッカーの練習をＹ君と一緒にすることにしたのだろう。友達同士で熱が高まれば、上達の速度も加速するだろう。長続きするかどうかは、当人たち次第だが。

2016年4月8日　寺田潤史

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