畑を歩くと、右を向いても左を向いても、やることが見出されて、どこから手を付けてよいか悩ましい。玉葱の収穫に行く。極早生の玉葱は太ったものから抜いて出荷していたが、もはや玉葱の葉が８割以上倒れ、一斉収穫の時期に差し掛かっている。一斉収穫するには、時間の確保が必要だ。

　その玉葱のまだ収穫しきっていない畝に、南瓜の苗を植えつけた。マルチフィルムの２度利用と、耕さない不耕起栽培を兼ねた植え付け方法だ。カボチャやズッキーニの苗は、まっさらの生分解マルチフィルムに最初に植えつけたが、雨と仕事山積みの影響で次のマルチフィルムを新しく貼ることができないでいる。そのために、利用できるマルチフィルムをもう一度使って、少しでも早く南瓜の苗を植え付けてあげたかったのだ。

　極早生の玉葱の後には、早生の玉葱が収穫に至りそうである。早生の玉葱は九月までの短期貯蔵ができるものだ。そしてその後には、晩生の貯蔵玉葱がある。そちらはまだ太っていない。５月下旬から６月初旬の収穫予定だが、この時期になると草に覆われやすい。そのための草取りも行っている。草取りといえば、収穫の始まったばかりの人参の草取りを、連れ合いが収穫しながら行っている。その次の人参の草取りもしなければいけない。芽の出たゴボウの草取りもやりたい。草は目の敵にしないが、草に覆われて野菜が収穫できないようではいけない。そのあたりは、草取りの時節というものがあるのだ。

　２５年も有機農業を続けていると、外してはいけない時節というものがカラダに染み付いてくる。今やればあとが楽、などの草取りに代表される作業や、いま種をまかなきゃもう手遅れだ、という作業などである。しかし、畑を歩かなければ思い出せない作業もある。野菜の品目がたくさんあるので、その野菜の具合を見て、野菜のやってほしそうな表情に後ろ髪を引かれながら、あとでやるからな、と言い聞かせるのだ。野菜の出荷作業に取り掛かると、畑の野菜の表情は見えない。思い出しはするけれど、何と言っても畑で物欲しそうな野菜の顔を見るのが一番説得力がある。

　人間の子供は、やってほしいこと、必要なことは、どんどんとはっきり言いに来る。まるで、何年も前から約束していた、とでもいうように、「ノートを今日中に買ってきて」と言いに来る。もっとも言いに来るくらいの、小学校中学時代のほうがかわいいかもしれない。大きくなると、お金が必要になる事案しか言ってこなくなるからだ。

　毎年毎年、この４月という時期は、子供たちの新学期あるいは入学などと野菜の出荷と植え付けの農繁期が重なり、出費も大変なものだが、カラダはいくつあっても足りないくらいである。それでも、年齢を重ねた分だけ、切り抜けることもできるようになってきたのかもしれない。昨日、長男のサッカーアカデミーに行ってきたが、そこに来る親たちの若さに驚いた。一世代どころではなく、ふた世代近い歳の開きがある。あの若さでは、今の僕たちの状況を切り抜けることはできない、と歳を重ねたことも悪くない、と感じたのだ。

2016年4月15日　寺田潤史

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