熊本の地震は、もはやいつどこで地震が起きてもおかしくないことを僕達に再認識させたかのようである。亀裂、土砂崩れ、余震の数、それらの報道をテレビで見るにつけ、末世的気分に襲われる。常に死と隣り合わせで生きていくには、楽観的に生きるほかはないのだが、何も考えないで淡々と目の前の仕事を片付けていくのが現実だ。そして、子供たちには、やはり好きなことをとことんやり抜いて楽しんでほしいと思うのである。

　日々の生活の流れの中には、必ずよくない流れというものがやってくる。まるで、ある日突然やってくるようにも見える。実際はそうではなくて、何かしら軽い気持ちが蔓延してしまっていることに気づかないでいた結果、ということも少なくない。三女にも、それは突然やってきた。毎朝の出勤時、駅まで自転車で行った三女は、電車に乗り込んではじめて自転車の鍵をかけるのを忘れたことに気づいた。そこで、僕にメッセージを入れるという手段がイメージできなかったらしく、そのまま会社に向かった。

　会社からの帰り道、駅で自転車に乗ろうとして、自転車がないことに気づいた。そこではじめて僕に電話をしてきたのだ。何回通りか自転車置き場を探してなかったら駅前の交番に届け出るように指示して、あとで迎えに行くと伝えた。野菜の配達のついでに三女を迎えにいくことにしたが、自転車の防犯登録番号を記載したものを交番に届けなければいけない。そのまま交番で、三〇分以上も足止めを食って、被害届を完成させられた。どうせ自転車は出てこないだろうし、この面倒な手続きは、三女の心に再発防止を刻む機会と思って我慢の時間だった。

　次の朝、三女のiPhoneが壊れた。iPhoneがなければ何もできないような生活をしているので、これまた本を読む良い機会になっただろう。ソフトバンクの安心保証を利用するのは、これで家族四人目である。三女自身は、自転車盗難に続いての出来事で、最悪の事態である。アップルの修理サービスのあるビッグカメラまで行くのは、またしても僕である。本当に手間のかかる子供たちだ。

　その日の夜、自転車が見つかったと交番から電話が入った。川に捨てられていたらしい。取りに来てくれ、と言われてひき取りに行った。いやぁ、被害届というものは面倒でも出しておくものだなぁ、と実感した。自転車の前かごがひしゃげていたくらいで、少し汚れていたがまだまだ十分に乗ることができる。自転車泥棒の犯人に腹は立つが、不幸中の幸いである。

　いろいろな困難が起きても、辛抱強く、粘り強くあきらめないでいたら、悪いことばかりでもない。自転車もiPhoneも元に戻って、三女は会社の休みの日である。三女はお母さんの誕生日のためにケーキを仕込んでいる。僕は、ここのところのあまりにハードな仕事で疲れきっており、今日は午前中、事務仕事でカラダを休めた。雨の前に、極早生の玉葱の収穫も終わり、夏野菜の植え付け用のマルチ張りも終えた。長男のサッカーの試合三昧のゴールデンウィーク、鶏糞堆肥の運搬の仕事も増えて、僕の休みはあるはずもない。なんとか乗り切らなければいけない。何がゴールデンだ？仕事のハードさがゴールデンなのである。

2016年4月22日　寺田潤史

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