誕生日の夜、三女はスイーツを作ってくれた。平日であったし、前日もその日も洋菓子作りの会社で働いてきた三女は、思案して短時間で作れるフォンダン・オ・ショコラを作ってくれたのだった。いつものようなケーキは、スポンジを焼いて、などの段取りに時間を費やすので無理だと判断しようだ。会社から一目散で帰ってきて、僕が夜の野菜の配達から戻る時間に食べられるように仕込んでくれた。

　うちの子供達の中でも、一番現代っ子風に見える三女なのだが、家族の誕生日には必ずケーキを焼く。まるでそれが使命であるかのようだ。そして、フォンダン・オ・ショコラを前に「ハッピバースディ　トゥ　ユー」を皆で歌ってくれたあと、三女は封筒に入れたお金を渡してくれた。月々の三女の使うiPhone代と、家に入れる２万円を、給料から引き出してきたのだった。そして、「誕生日プレゼントに何を買ったらいいのかわからなくて、買う時間もなかったから好きなモノを買ってください」というメッセージ付きで、５千円をくれたのだ。

　まだたったの二ヶ月働いただけの三女だが、僕にはとても感慨深い行為に思えた。将来、お金がたまったら都会に出てさらに修行を積む、という目標を立てて働き始めた中学を卒業したばかりのものが、もうお金を渡してくれるのである。子供というものは勝手に育っていくものだなぁ、と改めて思う。まだ一人で生活ができるわけではないけれど、目上の人たちばかりの中に入って、頭を下げて働き技術を身に付けていく仕事をしながら、少しずつ成長していくものなのだろう。高校へ進学せずに働きたい、という漠然とした未来図を描いた一年前に比して、今は確実に形あるものを日々構築しているのである。その感慨深さこそ、最大のプレゼントであった。

　畑は、もう草だらけだ。草刈りをしても、またすぐに伸びる。草刈りを毎日やりたいのに、収穫と出荷に追われて出来ない。ズッキーニの交配も、毎日続く。交配をはじめてもうひと月になるけれど、まだまだ交配の数は落ちない。ミニ南瓜の雌花は、もうほとんど咲かなくなった。もうすぐ収穫も始まるだろう。貯蔵南瓜の交配はまだまだこれからだ。胡瓜の収穫も始まったが、まだ収穫量は少ないので大変ではない。じゃがいもの収穫は、連れ合いが毎日少しずつ進めている。

　５６歳になっても、毎日時間に追われて、全く疲れの取れない日々の連続に変わりはない。ここへきて、サッカーのコパ・アメリカ（南米選手権）に加えて、ユーロ（欧州選手権）もはじまる。これはもうサッカーざんまいだが、もう時間を増やすことなどできない。ダイジェスト機能を使うことも致し方がない。昨夜、長男のアカデミーから戻って、発送メールなどの作業を慌てて終えると、ひと風呂浴びた長男は、録画したコパ・アメリカの試合を見ながらカレーを食べていた。サッカー馬鹿はサッカー馬鹿になるしか道はないのかもしれないね。

　夜中に、一通りサッカーを見て、寝る前に僕はギターを弾く。創作活動が全くできない今、技術の退化だけは避けたいので、ギターの練習だけはしておかなくてはいけない。何事も、継続と執念は重要な要素である。そして、カラダの使い方もまた…。

2016年6月10日　寺田潤史

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