四月から働きはじめた三女は、元気に毎日会社に通っている。上の娘二人が大学進学であることを羨ましくもなんとも思っていない様子で、お金を稼いで好きなものを買う、あるいは出掛ける、というようなことが気に入っている様子でもある。本当は一人暮らしをしたいようだが、まだ一人で生活するには若すぎることを本人は自覚している。生活のすべてを、自分の責任で毎日為すということには、まだまだ不安があるのだ。食事も洗濯も掃除も戸締まりも、はたまた光熱費を払って家賃も払う、その生活を一人でするには、あと数年を要するだろう。

　仕事として、ケーキ作りに携わることが毎日であるので、自分のレシピで作るケーキは、かなり少なくなった。それは、少々残念である。中学生までのケーキ作りは、仕事にはとても役に立っているようだ。ただ、手作りとは言えケーキ工場であるので、スピードと個数を要求される。まだまだ先輩たちにはかなわないらしい。ケーキを、見た目の美しさとスピードで判断する、という発想は僕にはない。ケーキ作りの現場では必須事項だとは想像できるので、今後のことを考えても、とても良い経験になっていることは間違いない。

　三女の作るケーキは、しかし味がなかなかよい。会社では、自分の味を出すことは今は不可能だろう。そう考えると、やはりケーキ作りの感性を上げていくには、自宅でのケーキ作りを増やす必要があるだろう。感性と言えば、就職活動の時期に伺った個人経営のケーキ屋さんのオーナーが、感性を磨くことを盛んに唱えられていた。いろいろなところへ行き、いろいろなものを見て、経験して、その経験こそが最終的にケーキ作りの大きな手助けとなる、というようなことを。

　三女は、この頃ミュージカルに凝っている。若手俳優の登竜門的なものらしいが、テレビやDVDでは飽き足らずに、東京や大阪まで足を伸ばして観劇している。親としては、半分困ったもんだと思っているのだが、東京や大阪などに出掛けて得るもの、それはそれでいつかケーキ作りに役に立つのかもしれない、とも思っている。何かに熱狂することの憧れのような一面を、将来小さなケーキに表現できるのかどうなのか？

　一緒にそれらを観に出掛ける女子高校生たちは、アルバイトなどをしてその費用を工面しているようだ。三女のように稼ぎのあることが、出掛けることを後押しして観劇に拍車をかけている。上の姉たちはiPhoneの月々の代金を親が払っているが、三女はそのiPhone代金と生活費２万円を家に入れている。これは決定的に上の姉たちとは違うことだが、僕達親にとっては、その違いをあまり感じない。皆それぞれに良いところもあれば良くないところもあるのだ。

　三女もまた個性的だが、なんでも親によく話す。会社のことも友達のことも、彼氏ができないことも。よくぞそのように育ってくれたものだと思う。今はまだ親元にいるからそのように感じるかもしれないが、外に一人暮らしをするようになれば、とんでもないことをしでかすかもしれない。そういう未来も含めて、育つ過程を観ていくのは楽しいものだ。今年の総括になっていないかもしれないけれど、育つ過程を見守る一年であったことは確かな一年である。まだまだ皆が巣立っていくには、時間がかかるだろうけれど。

2016年12月29日　寺田潤史

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