この１０日あまり、これぞ真冬というお天気で、しびれるくらいに日本の冬を堪能できた。年を重ねると、寒さに対する我慢はあまりできないで、カラダを温めることを優先する。納屋の薪ストーブは活躍してくれるのだが、今季は良い薪をあまり備蓄していないので、即効性のある笹竹と乾ききっていない剪定木を中心に燃やしている。確定申告の準備で帳簿などに没頭していると、薪ストーブの火が消え、足先が冷え切っていることがままある。そんな時には、畑に出て動く作業をするか、木を切って体を温めることが多い。

　昨秋、腰を痛めた経験から、この冬はカラダを温めることにして灯油を多く費やしている。部屋の石油ストーブを強力なものに替えたのだ。それまで使っていた小さな石油ストーブは、東京時代から３０年以上も使っていたもので、温める力は限りなく低かった。強力なストーブは、とても暖かいが、灯油を使う量はいままでのものの数倍である。食事をする居間にそのストーブがあると、当然ながら子供達もそこにいる時間が長くなる。子供との会話が増えるという、ストーブの力はいいものである。部屋にストーブを置かなかった時代には、子供たちがまだ小さくて、納屋の薪ストーブに自然と集まってきたものだ。子供たちが大きくなると、わざわざ納屋に来る子供は激減、小学４年生の長男だけが薪ストーブに薪を入れて喜んでいる。

　三女は昨夜、また二月に東京へミュージカルを見に行きたいと言い始めた。自分で稼いだお金で行くのだから好きにしていいのだが、一応僕に行っていいかと聞いてくる。えー？と僕は答える。また行くのー？お前は修行中の身なんだぞ、とお決まりの言葉を並べてみるが、右の耳から左の耳である。風呂に入って考えた。あんまり反対するのもあれだからな、よし条件をつけてやろう。この頃家族は、みな不満に思っている。去年はあれだけ食べたケーキが食べられない、と。

　修行は会社で毎日行っている。ケーキ工場とはいえ手作りであるから、技術的なことは毎日いやというほど鍛錬をしているようなものかもしれない。ただ、自分で考えたレシピを自分の味覚で作るということがなくなってしまった。そこで、そのミュージカルまでに、四回ケーキを作ったら行っていいよ、と。四回に分けて自分のレシピで四種類のケーキを作って、と。

　１日が過ぎて、今日の夕飯時、三女は言う。電車の中でもずっとケーキのレシピを考えていた、と。会社の休みは連続していなくてとにかく時間の制約があるので、どうやって家でケーキを仕込むかの計算とレシピを組み合わせているのだ。iPhoneを見ても、ケーキメニューを考えるためのものばかりで、去年の三女が戻ってきたようでとてもいい。

　誰でもそうかもしれないけれど、何かを続けて精進するということは、やはり一人ではなかなかできない。横綱に昇進した稀勢の里は、先代師匠の育てる力が相当なものだったことを述懐している。三女がパテシエを志していても、ミュージカルへの熱狂は避けられない。しかし、本懐は本人が一番知っているわけで、そこに追い込むことも周囲の人のサポートと言えるだろう。長女のホルン、次女の油絵も、僕は少しだけ口を挟む。長男のサッカーは口だけでは無理だが。何物かに突き進んでいる人の顔を見ているのが楽しいのだ。

2017年1月26日　寺田潤史

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