親父の命日である。もう、丸十六年になるのか、と時の流れの速さに驚く。１６年前の２００１年と言えば、思い出すのはパソコンを使い始めた年だということ。当時、親父の使っていたアップルのパワーマックが他界後２ヶ月ほどしてやってきて、マウスやキーボードに初めて触ったのだった。あの頃はまだ、携帯電話すら所有していなかった。それが今では、三女以下の子供たちが、パソコンすら使わないでｉＰｈｏｎｅを使いまわす時代になった。時代の変わるスピードの速いこと早いこと。その速さに振り回されて、本当に人間は進化しているのかどうなのか？怪しいと思うのは僕だけではないだろう。

　パソコンをまったく使わないで育った三女は、あの時一歳にもなっていなくて、親父の最晩年の膝の上に抱かれていた。長女も次女も、親父に可愛がられて育った。保育園に預ける必要もなく、カラダを悪くした親父やおふくろに毎朝預かってもらいに行ったものだ。親に甘えられるときは甘えておくのがいい、ということはなかなか元気な時にはできないものだが、その言葉通りに甘えておいてよかったのだと思う。そう考えれば、いつか僕の子供達も、あの時はああだったと思い出してくれるのだろうか？などと一瞬考える。しかし、今はやること、やりたいことが多すぎて、考えをめぐらす余裕がない。

　この１６年、僕たちはひたすらに走り続けた。親父が死んだあとにも四女と長男が生まれ、長男には親父と音読みで一字違いの名をつけた。台風にやられた年も幾度となくあり、しかし子供たちの成長は待ったなしであった。今もそれは続く。親父が生きていたのなら、もしかすると走り続けるのにももう少し余裕があったかもしれない。親父が死んでから、リーマンショックがあり、東日本大震災もあり、熊本などの地震もあったし、最近ではトランプ大統領の就任、金正男氏の暗殺などと、世の中は平穏とは程遠い状況だ。宗教的弾圧が平然と行われる一方、宗教に固執する人も当然少なからずいるわけだが、他者を攻撃しない教えというものは存在しないのだろうか？と思う。

　うちの生業とも言うべき農薬を使わない有機農業も、農薬を攻撃するためにしているわけではなく、農薬を使いたくないから工夫しているに過ぎない。自分や自分の子供たち、人様に供給するものに農薬を使いたくない、つまり形が良くなくても胸を晴って差し出せるようなものであることが、最低限の僕達の満足なのだ。親父が死ぬ直前に、親父が僕に伝えたことを思い出す。「お母さんにも野菜を食べさせてやってくれよ」と。

　僕が帰農して数年経った頃、親父は僕に「手の怪我だけはするなよ」とギターを弾けなくなることのないようにという意味のことを言った。どんな会話の流れであったかどうかは覚えていないが、その言葉の中に好きなことは続けるものだという肯定が含まれていると解釈した。そのことを思い出して、いつの間にか僕は親父の思いと同じようなものを、僕の子供たちに対してしているのだなぁとも思う。親子というものは、仲がいいとか悪いとかそういうものを超えて、どこかで受け継いでいくものがあるものなのだろう。

2017年2月23日　寺田潤史

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