三月は早くも下旬に入った。四女は十三歳になった。去年の小学校の卒業式の写真を見ると、その成長ぶりは明らかである。成長期真っ盛り、よく食べよく眠る。ナンチャッテ卓球部で卓球を始めて一年。二年生ナンバー２にも勝てるようになってきたらしい。あくまでも、ナンチャッテであるけれど。友達たちとも、ワイワイガヤガヤやっているようだ。誕生日プレゼントに、三女からよい財布を買ってもらってご機嫌である。

　その三女、Twitterのお菓子のアカウントを復活させて、私生活でのケーキ作りにもまた熱が入るようになった。先週は、青春１８切符を使って、日帰りで合羽橋道具街にも行ってきたらしい。来月には１７歳になるけれど、高校もいかずに仕事をして、こういう１７歳もいいものだと見ていて思う。どんな形であれ、子供のベクトルの向く方向を後押しして見守るのは悪くないものだ。

　長女は無事ドイツから帰国した。相当なカルチャーショック、ホルンショックを受けたようだ。できればドイツ長期留学をすぐにでもしたいようだ。これは、純粋にホルンを吹く技術の上達を考えたうえでのことのようだが、日本の社会では高校から大学という流れと、それに伴った給費特待制度の恩恵を受けていることで、ことは単純には運ばないと予想される。ただ、アンサンブルがアンサンブルに聴こえる、という感覚は大事にすべきだろう。

　日本でもアンサンブルの授業も受けているし、プロの演奏家たちのアンサンブルも聴いているわけだが、ドイツに行って初めてアンサンブルがアンサンブルに聴こえる、という体験をしたらしい。音の世界というものは不思議なもので、人が「いいよ」と勧めてくれたことと、自分が「いい」と感じたことにはものすごい開きがある。当然ながら自分の感覚を大事にすべきだ。ところが、社会というものは知らず知らずのうちに、総意というものを作り上げてしまう。そして、いつの間にか自分もその総意に飲み込まれてしまうことがあるものなのだ。長女は、ようやく自分の感覚をよしとして、事を進めようとしているのだ。

　僕としては、お世話になった高校の師匠や、現在の師匠たちの賛成のもとにドイツに渡ってほしい、できれば給費特待に支障もなく大学も卒業してほしい、という思いがある。だが、本人の「私の技術はどうなるの？」という一人のホルンを志す者の渇きともいえる熱望を、支持したいとも思う。今回のドイツでのセミナーに、日本人女性の名前が数名掲載されていたが、あとで聞くと長女以外は全員ドイツ在住だという。その人たちはほとんど日本の音楽大学卒業者で、大学卒業してからでは遅いとおっしゃっているようなのだ。

　子供がヨーロッパに短期留学するとなって、その行き返りを心配し、無事に戻ってこられてやれやれと思うことも束の間、とてもこの先が平穏とは思えないこの進展具合に、この３月は一層休まらない月となった。苗床では、トマトやモロヘイヤ、キュウリやズッキーニなどの芽が出始めてきたところだ。命そのものの前に進もうとする力、これは誰にも止められない。いや、止めてはいけないのである。サポート、サポート、サポート。

2017年3月23日　寺田潤史

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