２度の台風は、畑の野菜を激減させるに十分であった。暑い秋から長雨と台風を経て、一気に冬に入ったような気候であったから、次の野菜が育つ暇がない。暑い秋で幼い葉ものは虫にやられ、やられなかった野菜たちは、長雨で弱り、大風になすすべがない。農薬を使わないで野菜を育てるということは、そのすべてを受け入れることなのだ。

　７月くらいからの怒涛の出荷ラッシュで忙しかった日々から、一転してファーマーズマーケットへの出荷をお休みしている日々となった。野菜に余裕がないのだから仕方がない。ここぞとばかりに、カラダを休めながら、今までできなかった仕事を一つずつ片付ける日々にしたいと思う。遅々として進まなかった野菜の苗を植え付け、堆肥をまき、畑を耕す。雨戸の閉めっぱなしであった座敷を開け放ち、掃除機をかける。領収書の類をデータベースに打ち込む。そしてまた、種播きの準備をする。玉葱の苗床に出現したヨトウムシを潰す。散水チューブなどの野菜の資材を片付ける。竹や笹などが侵食してきたものを切り倒していく。したくてもできなかったことが、一つずつ片付いていく様は、なんとも気持ちがよいものだ。

　畑で小かぶの小さなものを収穫していると、携帯電話が鳴る。次女であった。札幌で展覧会をやるので絵を送ってほしい、とのことだった。あのでかい絵を送るのか？と聞くとそうだと言う。うちの玄関の客間に、立てかけてある１０ほどある次女の描いた絵のことだ。３０号だ５０号だといろいろあって、一番でかいのは１００号サイズ（１６０ｃｍ四方）だ。展覧会って、個展なのか？一人で展覧会をやるというのか？札幌の良い場所で個展を開けるなんて後にも先にも今回だけかもしれない、と言う。なんでも、急な話だから費用は通常の３分の１で済むかもしれない、ようなことを言っている。

　個展を開く、という世界のことはあまり縁がない。僕が東京にいた頃、美術館に一人で絵を見に行ったことはあるが、特定の人の個展には行ったことがないと思う。記憶にないだけかもしれないが…。それを、次女が一人で個展を開いてどういう意味があるのだろうか？まだ今年大学生になったばかりだ。すると次女は言う。どこでどういう人が見てくれるかもわからないし、どのような縁があるかもわからないから、こういうチャンスは逃したくないのだそうだ。あんなでかい絵をどうやって送るんだ？今度、宅配業者に聞いてみよう。

　何はともあれ、夏休みに戻ってきた時に、大学での絵の制作について悩んでいたことなどウソのように、気色ばんで電話をかけてきたのだから、次女のエネルギーは前を向いていることは確かだ。数日前には、長女がメッセージをよこして、正月は帰らなくてよいか、と尋ねてきた。１月の18.19.20日で地元フィルハーモニー楽団の仕事が入ったから、ということで、２度も帰省する必要はないだろう。

　台風で野菜は意気消沈しているけれど、子供たちは勝手にいろいろとやってくれる。中学二年の四女は、高校進学しないで大工になりたいと言い出している。宮大工もいいな、とも言う。姉妹の中で、一番普通の女の子なんだけどな。フー（汗）。

2017年11月3日　寺田潤史

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