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「おふくろ退院」

 気温26度まで上がって、初夏のような気候で過ごしやすい。日中は日差しが強く、日当たりの良い場所の葉物類はしんなりと葉を下げるくらいだ。雨が降ったばかりなのに、空気はもう乾燥している。この時期は、案外に乾燥しやすく、それはそれで気持ちの良さを際立たせる。これでジメジメしていたら、葉物類はあっという間にナメクジの天国になるだろう。

 畑はまさに農繁期で、出荷も忙しいが、植え付け作業も遅れがちだ。気がつけば夕方で、毎日少しずつ植え付けやその準備を進めている。暗くなったら、長男とのサッカーに時間と体力を持っていかれる。カラダはなんとか動いているが、疲労回復にはどうにも時間を必要とするのは歳のせいだろう。今しがたサッカーをしてきたばかりだが、汗だくで最後はよれよれだった。僕が攻めて長男にディフェンスをやらせる時には4対0で勝っていたのだが、長男に攻めさせたら6対5と逆転されてしまった。

 入院していたおふくろは、先週退院することができた。血栓ができて脳梗塞となり、一部の脳が使えなくなった状態らしい。幸いにも、体を動かしたり通常の生活をする脳はそのままの状態のようである。目の視野が狭くなったので、車の運転はできなくて不自由だが、食事を作ったり掃除をしたりといった生活感はそのままに近い。心配なのは、この先、また高血圧などに起因して脳梗塞が他の場所で起こらないとも限らないということだ。脳の血管を詰まらせないように意識して生活する、なんて人間にできるのだろうか?とも思うが、まあ普通に生活ができるのならそれで良しとすべきだろう。

 親父が他界したのは、もう17年も前だ。親父の場合はガンが転移して、というあっけない感じであった。死はショックだったが、親父の後始末のようなもの(長男の兄貴が相続でてんやわんやであったが、僕たちは使える畑が変わってしまったので一大事であった)に奔走して時があっという間に過ぎた感があった。おふくろは、膝の痛み以外は今までが健康に過ごしてきたので、ある日突然に脳梗塞で様子がおかしくなったのには慌てた。歳を重ねたなら、いつ何が起きてもおかしくないのだろう。

 僕だって、年齢に不相応なサッカーの練習相手をしていること自体、いつあっけなく死んでしまってもおかしくないくらいのことだ。ただ、子供たちの将来がかかるここ数年だけは、なんとか生き延びてみたいと思う。5人が5人、ここ数年が一番の心配な時期なのである。以前は、死を切実に考えたことはなかった。そういう意味でも歳を重ねてしまったのだろう。しかし、まだまだ毎日仕事をして、サッカーをして、夜には一杯やって、ギターの鍛錬を続けていくつもりだ。

 人は誰でも、誰かの子供である。だから、親に対して、何らかの思いを持っているものだ。そして、それぞれに生活というものがある。違う生活スタイルを身につけたとしても、親は親なのだ。おふくろと一緒に住む兄貴を見ていて、兄貴が優しさを持っておふくろと対している光景を垣間見ると、心がほっと暖かくなったようで嬉しい。

2018年4月20日 寺田潤史


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