駆け足の人生である。あの暑い夏はどこへやら、まだ九月お彼岸の入りであるのに、秋風は肌寒い。気候も怒涛の勢いで変遷を重ねて、濁流の瀬戸内も、地震の北海道も、ただただニュースを見て衝撃と驚きで、次々に日替わりにやってくる出来事をやり過ごしているような始末だ。政治の茶番劇には、もはや呆れるばかりで、民意とかけ離れた政治からは距離をおいて、僕たちは今日や明日を生きることに精一杯である。

　地元自治会４つの合同敬老会ともいうべき敬老の集いが、今年も開催された。１０回目の記念開催にして、僕も１０度目のビデオ撮影係を引き受けた。毎夜、そのビデオを編集しているところである。会の当日、、今年も中学の吹奏楽部の演奏があったのだが、演奏が始まると、ビデオ撮影していて思わず涙が出そうになってしまった。これは歳を重ねたせいなのか何なのか？

　吹奏楽部の演奏をビデオに撮るのは初めてではない。その昔は、友人の娘さんの高校の吹奏楽部の演奏会をビデオ撮影したこともあるし、長女の中学の吹奏楽部の定期演奏会も撮った。敬老の集いも含めたなら、吹奏楽部の演奏なんてほとんど毎年のように撮影していることになる。なのにどうして泣けそうになるのだろう？演奏が上手なわけでもなく、いやむしろ明らかなミスや音程の狂いを聴き出すことに苦労はしないくらいだ。吹奏楽部の中に知り合いはいない（後で聞いてみると長男の友達のお姉さんはいたようだ）。それでも泣けそうになるのは、自分が歳を重ねたから、としか説明がつかない。

　よーく考えてみる。中学１，２年生のつたない技術で、しかし皆真剣に演奏する。その真剣さをおのおの楽器に込めて音を出すところに、心を打たれるのだろうか？また、演奏曲目に対する生徒一人ひとりの気持ちというものにリスペクトを感じられる、というか、「なんだこんな曲好きじゃないよ」みたいに思っている子がいないくらいではないか？僕のように何十年も音楽をしている人間とは違って、純粋さを感じているのが伝わってくる。僕なんかもう不純物の塊のようなものだもの。不純物の塊が、純粋なものの音を聞いて泣きそうになるのだ。これらを総称して、歳を重ねたから、となるのである。

　敬老の集いというもの、式典の部分は誰だって面白くない。吹奏楽のような第２部のお楽しみを皆が期待しているのだ。落語やお囃子など毎年違う催し物を見てきたが、今年はファッションショーが加わった。地元の専門学生によるデザインを、地元の別珍コール天という素材を使って、地元の人がモデルとなってファッションショーを行ったのだ。やはり老人たちが見たいものは、老人ではなくて若い人のエネルギーである。

　吹奏楽部の演奏も、今年は有志の数人ではなくて、１，２年生全員、総勢約３０人が来てくれた。女の子ばかりでなく、男の子も数人いたし、歌も演奏もあって、楽しめたと思う。僕は、ビデオを撮るだけで、運営には関わっていない。毎年のことなので、やはり同じようなことばかりやっても長くは続かないと思う。１０年続いたことは、今後の１０年の励みにもなるだろう。まさか、この先１０年も僕はビデオ係りをやるのだろうか？

2018年9月20日　寺田潤史

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