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「秋のオクラ」

 雨ばかりの日々。「来る日も来る日も雨だから、乾いた風に逢いたくて…」なんていう古い歌が口をついて出る。何日か雨が降って、三日ほど降らない日が続いただろうか?また雨になるという予報に変わる。夕方慌ててトラクターで畑を耕した。耕すことのできる場所は、ごく限られている。ぬかるみで入れないようなところは耕せない。夕暮れぎりぎりで大根の種を播いた。

 翌朝、雨はまだ降っていない。昨日耕したところの残りの部分に、大急ぎで種を播く。ほうれん草、人参、春菊。水を含んでいるので、簡単な種播きではない。六〇メートルを播種機を押して何往復もする。播種機の車輪には湿った土がついて、播種機はどんどん重くなる。播き終えたところで雨が降ってくる。慌てて合羽を着て、オクラの収穫に移る。

 オクラの収穫には、軍手を使う。オクラに素手で触り続けると、痒くなってくるからだ。つなぎ服と軍手の間には手甲をあてがう。使った軍手は、数日ためて、まとめて洗濯する。雨が続くと、洗濯もままならない。雨の日には、軍手だけではダメである。水分を通して手が痒くてたまらなくなるのだ。だから、薄いビニール手袋を軍手の下にはめておく。こうすれば快適な収穫だ。

 7月からオクラを収穫し続けて、当然だが一日たりとも欠かしていない。毎日一時間から一時間半をオクラの収穫に費やしている。オクラの樹の背丈は、ゆうに僕の背丈を超えている。側枝が下から発生して、下から上まで収穫物たるオクラの実をくまなく探していく。下から上まで見回すだけでは、到底すべてを見ることができない。最初に膝を曲げてしゃがんで、下の方から見ていく。上まで見終えたところで、今度は二条あるオクラの群れの中に頭を突っ込んでみていく。オクラの葉が密集しているから、オクラの樹をかき分けて下から上までくまなく見ていくのである。これを少しずつ、七〇メートルにかけて行うのがオクラの収穫だ。

 そのオクラの収穫中に、何を考えているか?相変わらずに、成長したオクラに向けて「素晴らしい」「よう頑張ったなー」と独り言を言っている。さらに、サッカーのことも考えている。長男がサッカーで、視野を広く見ることができるのは、両親が野菜の収穫でいろいろな角度をくまなく見ることも影響しているのではないか?と考えたり。そのことを連れ合いに伝えると、連れ合いは「私が中学高校でバスケットボールのパスを出す役目だったからということも影響しているのかなぁ?」と返した。もちろんそういうこともあるだろうし、様々な要因が関わっているだろう。その中に野菜の収穫も入れてくれ、と僕は懇願したくなる。

 視野の広さというのは、サッカーだけでなくどんな分野でも役に立つことがらであろう。それは、狭小な世界を磨いてこそ生きてくるものだ。そして、狭小な世界の技術力と視野の広さを持続させることで、様々な状況に対処できるようになる。物事は、見る角度を変えるだけでどのようにも見えてくる。こちらから見えたものが、反対側からは見えないなんてしょっちゅうだ。しかし、人の目は様々な角度から見つけ出す能力がある。ほんの小さな違いを見分ける能力もある。積み重ねることで、人間の能力は伸びるのだ。なんて、毎日の一時間あまりをいろいろな妄想とともに過ごしながらオクラを収穫している。

2018年9月27日 寺田潤史


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