台風２４号は、予想を遥かに超えたものだった。台風の来る前、どうやらこちらに直撃はなさそうだが、もっと北へそれて日本海まで行ってほしい、と願った。しかし長野県付近を通過して行ったようだった。ようだった、というのは、その時間つまり３０日の日曜日よる１１時頃、停電してしまって、さらに台風の猛烈な風でものすごい音を立てていたので、もう台風の場所などどうでもいいような心境だったからだ。それは、今までの台風直撃時でも聞いたことがないくらいの音だった。こんな大きな音したっけ？と連れ合いと話したくらいだ。

　翌朝になっても停電したままだった。１０月１日は、三女の東京への旅立ちの日だった。翌２日に、僕と連れ合いが荷物を持って引っ越しをする予定である。しかし、iPhoneで見るニュースでは、静岡県の多くが停電していると伝えている。朝８時の高速バスの乗車券を予約購入してある三女は、早くから起きて行く気満々であった。「無理だろう、東海道線も運休している」と僕は言い、「明日一緒に行くしかないな」と伝える。案の定、高速バスは運休したとの連絡が入った。「新幹線が動いている」と三女がまた食い下がる。その日は、契約した部屋の鍵を受け取ることになっていて、部屋宛に夜には布団やカーテンも届くのだと言う。しょうがない、と連れ合いに浜松駅まで三女を送っていくように伝えた。

　四女の中学も長男の小学校も停電で休校になった。外に出てみると、野菜はすべて葉が茶色くやられている。潮風、塩害である。あんなに遠くを通過した台風だが、その勢力の大きさからか、南風で一気に海水を巻き上げたのだろう。野菜全滅である。屋根を見上げると、テレビのアンテナも倒れている。連れ合いが三女を送って行っている間に、折れたアンテナを修復した。

　前日に、台風が来るからとピーマンなどを大量に収穫しておいた。それらを仕分けして、ショッピングモールに持っていった。停電でデジタル秤が使えず、目盛りが１０ｇ単位の秤で重さを量るなど、ずいぶん久しぶりのことである。そして、夕方、日が暮れるまでに、毎週のお客さんの配達分を仕分けなければいけない。納屋でパソコンとデジタル秤で電気のついたテーブルで仕分けることができないなんて、何という不便さであろう。家の窓のある畳の部屋へ野菜を運んで、紙に野菜の種類と重さを書いていく。ああ、１７年前までは、こういうことをしていたんだなぁ、としみじみするが、夕方日が暮れる前に、停電しているであろうお宅に配達しなければいけないのだから、悠長なことは言っていられない。

　翌日の引っ越しはどうなってしまうのだろう？と言いながらローソクの灯りで皆で食事をした。夕方、僕が仕分けをしている間に、連れ合いと長男が支所にiPhoneの充電に行ってくれていた。かろうじてニュースをiPhoneで見ることができていたが、明日はどうなることか？と思っている時に、四女が「あっ」と叫んで、一気に電気がついた。喜んだ喜んだ。翌日になっても小学校は停電中であったから休校で、長男は一人家で留守番。四女の中学は給食がないから半日である。僕と連れ合いは東京へ向かった。三女のマンションに滞在すること三時間で無事に引っ越しを終え、夕方六時過ぎには家に戻ることができたのだった。

2018年10月4日　寺田潤史

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