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「帰農して丸30年 その3」

 消費税なんぞに振り回されている場合か?と心で思っても、納品先はすったもんだしていて、僕たち農家のところに売上情報が上がってこない、という事態にもなった。大きな企業ほど対応は早い傾向にあるかな?IT重視の企業でも、混乱は隠せないようだった。

 気候は、相変わらずに高値止まりで、十月なのに最高気温は30度近く、最低気温も20度を切らない日々が続く。お陰で、オクラの収穫は絶好調。オクラの収穫と仕分け作業で、どれほどの時間を毎日割いていることか?でも、オクラ専門の農家にはならない。それどころか、オクラをたくさん作付けたらいい、なんてアドバイスもしない。七月から十月まで休みなし、という生活をノゾムトコロだと言えるようなワカモノたちがいるならそれもいいけれど…。

 僕たちが結婚してからだったかな?オクラをたくさん作付けるようになったのは。たくさんと言ったって一畝だけだから、オクラ専門農家からすれば少しの面積である。ひとウネ70メートル2条植えが限度だね、僕たちにとっては。これ以上だと毎年は続かない、と思う。オクラに限らず、多品目の野菜栽培でも米でもお茶でも、とにかく長く続くことが生命線だ。いわゆる有機農業というものは、草との関係、土との関係を長いスパンで考えながら進んでいく方法と言えるだろうから。

 手を動かし、足で歩いて、土や草と共にある野菜。それら野菜たちと共に30年。これからも生ある限り手足を動かすつもりだ。子供たちから見れば、とてもスマートな生活とは言えない。家も古いし、納屋も古い。虫も多く、蚊も多く、過ごしにくいことこの上ない。だから、子供たちは皆、家を出ていく。それでいい。この生活が君たちに及ぼした影響は計り知れないだろう。僕にとっては、東京での10年あまりの生活の末に欲した環境である。連れ合いにとっては、少し経緯は違うだろうけれど、畑にいることや火を炊くことの大好きな、洋裁好きな彼女には良い環境だと思いたい。欲を言えばきりがないけれどね。

 帰農して20年を過ぎた頃から、子供を育てるのが目標になってきた。音楽制作を中断しても、子供に寄り添ってきた。出荷先への納品と畑だけの日々。昔のように外に出向くこともないくらいに。そして、5番目の長男のサッカーが、僕たちの楽しみの一つにもなった。上の子達のホルンや油絵やケーキ作りは、最初のレールを敷いてしまえば、あとは好きなように精進あるのみであった。しかし、サッカーは違った。あまりにも競争相手は多いし、地元サッカー少年団での練習だけでは本人の希望の進路には進めないことは明白だった。だから、サッカー好きの僕が練習をサポートし、連れ合いが少年団との関わりと役割を分けた。

 帰農1年前まではまさか農の人となるとは思わなかった。僕が音楽制作をしていても、子供に音楽を強要することはしなかった。欧州サッカーのテレビ観戦を趣味としていたけれど、子供にサッカーをやらせることになるなんて考えもしなかった。それらのことは予期せぬことで、人生はそのようにできているのだな、と思う。四女がアルバイトをして普通の高校生活をしていることも、新鮮さをもって見守っているところだ。

2019年10月4日


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