先の日曜日、高校の同級生との新年会を納屋でやった翌朝、久しぶりの二日酔いでゆっくりと寝た。昼にファーマーズマーケットへ納品に出かけ、夕方は玉葱の植え付けを一気に片付けた。ゆっくりと休息をとると、こんな歳でも仕事に集中力を込めることができるものだ。そうして、今年の農作業を加速する気配に自分を傾けていく。

　翌日の月曜日、出荷に追われ、夕方の配達、そして駐車場のライトを点けて、ジュニアユースのサッカーが休みの長男の相手をした。さらに、夜の配達のために野菜の仕分けをしていると、iPhoneに着信音。ドイツの長女からで、「どうかしたか？」と返すと、「ハンスアイスラー受かっちゃった」と。「え？」「ハンスアイスラーってどこ？」とまた返した。「ベルリン」「演奏ボロボロだったけど、音を気に入ってくれたみたい」と来た。

　とうとう、ドイツの大学院に合格してしまったのだ！僕は、仕分けの時間もないのに、検索しまくった。調べれば調べるほどに、ハンスアイスラー音楽大学はレベルの高い大学で、弦楽器の大学としては世界のトップクラスだということも書いてある。ホルンは音程の微妙な楽器で、オーケストラのみならず弦楽器との合奏も多い。音程と音色を二人の教授に気に入ってもらえたということは、とてつもなく良い環境を与えてもらったことにもつながるのだ。

　ハンスアイスラー音楽大学ベルリンは、旧東ドイツ時代の１９５０年に創設されたという。ベルリンにはベルリン芸術大学もあり、そこの老教授に長女はこの頃教えを請うている。ハンスアイスラーの受験も、ほかの大学院の受験のためのリハーサルとして受けるようにその教授に言われていたくらいらしい。通常は、入りたい大学の教授に事前にレッスンをしてもらってから受験をする形なのだが、今回はレッスンすらしてもらっていなかったということだ。だから、合格と聞いて本人も驚いたが、それを聞いた周りの人たちはもっと驚いたようである。

　僕たちの喜びは、それはそれはひとしおである。身内や同級生たちなど、長女のドイツ行きを応援してくれていた方々にメッセージを送りまくってしまった。その喜びの中には、学費の安さも含まれている。ドイツは連邦共和国なので、正確には国立大学ではなくて州立大学ということになるだろう。ドイツでの音楽の地位が高いからなのか、州立であるからなのか、ハンスアイスラーの学生カードにはその州全域の公共交通機関乗り放題の特権が付帯して、学費や設備費込みで年間１０万円を切る額で済むという（もちろんアパート代などの生活費は別途かかるが）。日本では考えられないほどに学生が優遇されている。その分だけ、入ることは難しいというわけなのかもしれない。

　長女のホルンのことはこの９年間書き続けてきた。その経緯を知るだけに、また紆余曲折の相談をずっと受けていたので、本当に感慨深い。まだゴールではない。ドイツでのスタート台に立っただけだとしても、僕たちにとっては本当に嬉しいことなのだ。頑張っている様が少しずつ報われるのを目の辺りにすると、畑での玉葱の植付けにもエネルギーが湧いてくる。子供が変化していく様を遠くで見守りながら苗を植えている。

　

2020年1月24日

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