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「63歳 その2」

 子供たちが、それぞれに好きなように生きてほしい、そう願うことはこの年になっても変わらないことの一つだ。あの東日本大震災の津波の映像を見た時に決意した、子供たちの好きなことをサポートする、そのことは今後も続くだろうけれど、彼らももう大人である。親がべったりであったら心地よいわけないし、自力でなんとか生きてほしいと陰ながらの応援ということになる。

 次女がこの頃、また絵を描き出した。産休代用の美術教員を一年、そして今の専門学校のデッサン担当職員で一年あまり働いて、ようやく何とか時間をやりくりできるようになってきたということだろう。もちろろん、グループ展を北海道でやろう、と声を掛けてくれた人がいるからこそのモチベーションなのだが、絵を描いている次女の存在そのものが好きなのである。絵に向かっているときの、前しか向かないみたいな、突き進んでいるような、そのような時間が日常に少しでも継続的にある、という状態が好きだ、ということかな?

 三女は、そのような状態に近いことを仕事にしている。中学を卒業してから、もう丸七年も洋菓子作りを仕事としていることになる。とにかく手を動かして、菓子材料や依頼されたデザインと一日中取り組んでいるわけだ。芸術とは少し違うけれど、向く方向が一定しているという意味では、安心して遠くで見ていられる。子供の頃と同じように、できた作品を「見て見て…」とメッセージとともにLINEで送ってくるのはしょっちゅうだ。

 その三女が好きな食べ物の一つに枝豆がある。三女が子供の頃、友達の家に家族で遊びに行った時、枝豆を食べ過ぎて、帰りに吐いてしまったことがあるが、それでもずっと大好きだ。次女も枝豆が好きである。今、家に一緒に住んでいるのは次女だけなので、今年は枝豆を次女に食べさせてやろう、と春先に力が入った。うちの枝豆は、それは美味しいに決まっているけれど、この時期は忙しいので、収穫に手間がかかってしまうから最近はあまり力を入れていなかった。枝豆を売るために作付けするのではなくて、家で食べるために力を入れたのである。

 帰農したばかりの頃は、まず自分が食べて美味しいと感じることが重要だった。だからいろいろなものを作付けした。しかし、野菜の需要が多くなるにつれて、どうしても手間のかかるものは力を入れられないようになっていった。前にも書いたが、玉ねぎを大量に作付けしたなら、玉ねぎの収穫期には時間を取られすぎて他の野菜の世話ができなくなる。多品目の野菜栽培というものは、どこかで何かを切り捨てなければいけない部分があるのだ。だから、どちらかといえば、野菜を買ってくれる人のために野菜を作付けて、余ったものを自家用に回す、というのが常態化してきたのである。

 今年の枝豆は、家で食べるために作付け、余ったものを売る、という久しぶりの試みだ。これも、63歳という年齢の為せる技かもしれない。どこかで捨ててきてしまったものを、新しく味わいなおす、と言ったらいいだろうか?自分の音楽もそうだけれど、アナログ的な音の手触り感、質感、響き、それらをもう外せない年齢なのである。

2023年6月9日


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