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「どこから来たかを永遠に その9」



 そもそも創作エネルギーがあることを前提に書いてみたけれど、実は創作エネルギーなんてものは、一瞬にして消えてしまうものでもあることも事実だ。家族のことを深く考えた時などには、創作エネルギーなるものを探すことすら難しくなる。この世が美しく感じる時というものは、数パーセントに満たない瞬間なのかもしれない。

 ふと、中世の音楽家たちがパトロンに頼って作曲生活をしていたであろう事柄を想像してしまった。絵画でもそうかもしれないが、芸術家などというものは、焦がれるような存在がなければ長続きはしないような生き物である。目の前のことが重要で、目の前のことに集中できる時に、永遠のテーマなるものに対峙できるのではないか?

 先週も書いたけれど、僕は野菜を育てる者で、野菜を作り出す者ではない。永遠のテーマにしてもいいくらいの「植物自らの生長したいという願望」のお陰を持って野菜を出荷していることは紛れもない事実だ。僕にとってのパトロンは、自然界の摂理なのだ。同じ兄弟でも、僕の兄などは「機械の仕組みを理解すること」が喜びであるくらいの人で、僕とは真逆だ。逆ということもないけれど、回転機械の油が、自然界の摂理と相容れないのは、そこに雨や潮風が存在するからである。もっとも、兄貴にとっては、ベアリングとグリースのような関係を密閉してしまえばよい、という解決策を提示できることが幸せの要因だ。僕の音楽には、永遠に解決策がない。解決策がないからこそ、グッと来るフレーズや音色を探し続けるのかも?

 芸術の世界は、経済を除けば自由な世界に近い。あまりに自由だが、基礎というものは重要であると思う。ところが基礎が最重要でないことも要点の一つであり、創造力をせいぜい手助けするくらいが基礎ということにとってはちょうどよい位置ではないか?例えば、音楽にはメトロノームという尺度がある。これを使って練習するのはよい。しかし、人は一人ひとりのリズムが違う、というランダムさがあるし、個人の生活の中でも心拍数は変わってくるし不整脈もある。この頃の流行りの歌のほとんどは、編集作業も楽な一定の機械のテンポで録音されている。窮屈なサイズの合わない靴を履かされているようなものである。極端に言えば、人が本来どこから来たのかを考慮に入れない一例だ。

 僕も数年間は、パソコンの編集も楽な機械のテンポで録音をしていた。さっぱりうまくいかなくても、無理矢理に合わせていた。若い頃に、バンドのレコードを作ってもらった時には、そのようなクリック音に合わせることをしていなかった。時代は変わり、レコードはCDになり、今では人に聞いてもらうことも簡単なネット配信が主流になった。しかし、ここへ来て国内外でレコードが再評価されている。人は、そんなに馬鹿ではない、ということだろう。あるいは馬鹿げたことを繰り返して、やっと馬鹿だったと思えるのかもしれない。僕は後者だ。

 創作エネルギーがどこから来たかを書こうとするなんて馬鹿げたことなのかもしれないが、その一部を書いてみると心の中は整理できたような気もする。自分のことは野菜や音楽で表現するほうが幸せに近い。何度でもチャレンジできるから。

2024年4月5日




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