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「走り続けていいのかな?」



 明日十三日から、4月末に他界したおふくろの初盆である。初盆という他界して初めて家に戻る霊を迎える儀式を、やや盛大に行うのはこの辺りの東海地方独特のものなのか?それはさておき、他界して10日ごとに和尚が来て、6月には49日祭、8月に入って御施餓鬼と100日祭と来て、ようやく初盆に辿り着いたような印象だ。

 この夏の暑さと、野菜の出荷の忙しさと相まって、もうへとへとである。現界がこんなにゴタゴタしているのに、他界したおふくろの供養になっているのかは甚だ疑問だ。仏壇の前に座った時にだけ、おふくろの遺影があるから話しかける。「おお、おやじといっしょにいるんかいな?」とか「子供らを見守ってやってくれよ」などと。仏教形式の儀式が良いとか良くないとか、すれすらも考えている余裕もない。おふくろの長男である兄貴が、意外と和尚の言う通りにいろいろやっているので、こちらはその通りにサポートするだけだ。

 秋野菜の準備もしないで、収穫に明け暮れるのは毎夏のことである。せめて畑を耕すくらいはしておかないと、と時間を見つけてトラクターにも乗り始めている。うちの古いトラクターは、ガラスのキャビンの中で運転するが、エアコンはとっくの昔に壊れて動かない。だから、暑過ぎて長い時間乗っているわけにはいかない。30〜40分が限度である。無理はしたくないのだ。トラクターを降りると、外界はとてつもなく涼しく感じる。30度を超えていたって涼しく感じるのだから、ガラスのキャビンは猛烈な威力であることがわかる。

 家の娘達も、東京、横浜から帰省した。まあ、わいわいガヤガヤと、まるで子供時代に戻っったかのようで、仕事のペースも乱れがちになる。それでも、明日を丸一日休むとなれば、野菜セットのお客さんも前後に日程をずらしてもらったし、ファーマーズマーケットへの出荷にも影響が出る。すっきりと頭が回らない感じだし、夜は夜でお酒を飲みすぎてしまう。都会では、思うように野菜を摂ることができない娘たちは、大人になって味覚も変わってきて、お酒も飲めるようになっている。茄子料理をバクバク食べるようになったのだから、大人になるのをじっと待った甲斐はあるというものだ。

 こんな個性的な奴らを育ててきたんだから、それはそれはエネルギーも必要だったのだろうな、と今は思う。結局、若い頃から走り続けたままである。でも、このクソ暑い中でも、畑に出たほうがカラダは気持ち良い。へたにエアコンの中にだけ居るよりも、ずっとカラダは調子良い。一日何度でも水のシャワーを浴びる事になるけれど、それはそれで気持ち良いものだ。

 三女が今年の父の日と母の日の祝いに、会津に出向いて漆塗りの箸と椀のセットを贈ってくれた。それまで三〇年間使っていたやはり会津の漆塗りの椀が2つともぼろぼろになっていたのを三女は覚えていた。今回、三女が帰省してその箸と椀で茄子入りの味噌汁を食べていた。「一度食べてみたかったんだ」「あと三〇年はこれを使ってもらうのだからね」と言われた。あと三〇年は生きなきゃいけないのか?あと三〇年を走り続けたならどうなるのかな?途中で息絶えてしまうかもしれないけど、走り続けていいのだね?

2024年8月12日



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