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「走り続けていいのかな? その2」



 長年野菜を送り続けている東京のSさんからメッセージが届く。「週末、友人との外食続きだった娘、先ほど、お野菜たっぷり食べて…」赴任先へ戻られたとのこと。娘さんが帰省した実家でのお料理写真も、添えてくれました。娘さんの好物である煮なます、ひじき煮、なめこと豆腐の味噌汁、それらをSさんが料理されて、娘さんを送り出したその光景が目に浮かぶようである。Sさん夫妻にも娘さんにも息子さんにも一度もお会いしたことはないのだけれど。

 東日本大震災のあとから送り続けていると思うので、年に50回を12年としても600回も野菜を送ったことになる。この10数年を、僕たちは走り続けてきたので、所詮は走り続けながらの仕事である。そのうちの野菜を食べて育って大人になって家を離れ、帰省した時にまたうちの野菜を使ったお料理をメッセージとして娘さんに出すのだから、恐れ入るとともに、走り続けてきた甲斐があるというものである。

 正直に言って、この有機農業という仕事を100パーセントでやっているとはとても言い難いのだが、その日その日にできることに関してはほとんど100パーセントに近いようなことをやってきたとは思う。いや、無茶をし過ぎではある。昨夜も夜中まで仕分けをしていたし、夜中には畑の井戸水散水の場所変えもする。それをやらなければ、この酷暑と日照りの夏を乗り切ることはできない。定期の野菜セットのお客さんであっても、ファーマーズマーケットのお客さんであっても、待っていてくれる方がいるのだから、できるだけ何らかの野菜を出せるようにしておかないと、と思うのだ。「日の出とともに働いて、日の入りとともに家に帰り、雨水だけを頼りに晴耕雨読の日々を送る」というような一見ありそうなシチュエーションなんてこの時代の僕たちにはあり得ないのだ。

 子供を育てていた時代から、ずっと夜9時半頃が僕たちの夕飯時だった。子供は早くご飯を食べさせて、早く寝かせるのが良い、という英才教育あるいは人間科学に基づいた生活、頭が良くなるような育て方、そのようなものを僕たちはほとんどやってこなかった。野菜の収穫とお客さんの都合に合わせて僕たちはスケジュールを組み、その中に生活を組み込み、学校に通う子どもたちもそのドタバタの中で大きくなっていったのである。

 そのような走り続けながらの有機野菜を届ける仕事では、嘘もつけないけれど、懇切丁寧な対応もできていないと思う。さらに一年中農薬や化学肥料を使わない野菜が存在する、ということでのバッカリ食(同じような野菜ばかりが続くという)であるから、買う側のお客さんのほうが苦労するであろう、ということも加わる。それなのに、Sさんのように丁寧にお料理をされて長く買ってくれている方々が少なくない。有難う、とはそういうことであろう。

 で、今日も夕方、収穫を終えてトラクターに乗ろう、と思った瞬間に「ああ今日は月曜日だった、週刊てーてを書かなければいけない日だった」と思い出して慌てた。何を書こう?とシャワーを浴びながら考えたが思いつかない。納屋に戻ってみると、Sさんからのメッセージを見つけて、ヒントにさせていただいた、というわけである。

2024年8月19日



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