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「閑話休題2024 その2」



 赤坂見附の地下のBARに出向いたことは、ほっこりと暖かなものとして残っている。それをうまく説明できるかな?一つのエネルギーとして存在しているのだ。幾層にも重なった時代と時間の経過、核心部分を語る必要のない何ものかを内包している感じ、と言っていいと思う。

 Tが脱サラしたのが10年前らしく、半年ほどで地下のBARを始めたらしい。サラリーマンをやっていた時期を全く知らないので、僕の知っているのは大学時代の彼だけである。しかも彼と大いに議論した、かどうかも怪しいくらいだ。記憶が断片化している。今回、地下のBARに初めて訪れたわけだが、その時に僕の兄貴がTに向かって、僕のことを「音楽を考えた末に、農業になった」と、半分は疑問符の着いたような言葉で語りかけた。そこでTはすかさず答えた。「そういうもんです」と。彼は、サラリーマン時代に農業体験のような研修を受けたことがあったらしい。もちろんそのような体験があったとしても、実際にこの世界に入るには、その時の体験、人、地域との相性や自分の性分など、様々な条件が整わなければ無理があるだろう。それは、どの世界に飛び込む場合でも同じだろう。ただ、僕には、根っこに同じようなものがある感覚を確認できただけでも嬉しさが残ったのだ。

 Tは、マイケル・シェンカー・グループのアルバムを流してくれた。大学でサークルを作ったばかりの頃、僕たちのバンドがまだオリジナル作品ばかりを演奏する前の段階で、マイケル・シェンカーの曲をやっていたのがTにとっては印象深かったようだ。僕の兄貴は、ヴァン・ヘイレンのアルバム「1984」をリクエストしていた。

 バーボンBOOKER’Sのあとにもう一杯、グレンモーレンジィ キンタ・ルバンというルビーポートワイン樽で追加熟成したウィスキーもいただいた。そのグラスを飲み終えたところで僕たちは退散した。「また来れるといいね」と伝えて地下鉄の最終電車で新橋のホテルに帰ったのだった。お腹いっぱいのごちそうを食べていた妹の旦那を誘い、兄貴や妹、甥(妹夫婦の次男)まで引き連れて地下のBARに行ってきたのだが、僕が人を誘って飲みに行くということ自体がこの三十年で初めてのことだったのではないか?(常に誘われる側を演じてきた?)

 翌日は、朝から20品もあるような和朝食をいただき、ホテルのロビーでの甥(妹夫婦の長男)の結婚式に出席した。東急沿線に住む僕の娘たち3人も、衣装をレンタルし、美容院で髪をセットしてもらって出席した。披露宴はホテルの21階で行われた。美しく着飾った新郎新婦を堪能する感じの披露宴であった。新郎の親である妹夫婦はそれなりに着飾り、気を遣って大変だったと思う。僕はどちらかといえば、現代の結婚式はこのようなものなのか、とお酒を飲んで観察する側に徹した。妹の旦那の弟さん夫婦も来ていて、初めて言葉を交わした。若い頃はロックバンドでベースを弾いていた、とも。帰りの新幹線で、僕はよく眠った。

 話を戻すと、地下のBARにTを訪ねたことで、僕は一つのエネルギーをもらった。労働も鍛錬も十分にやってきたしこれからも続けるだろうけれど、拙いものを表現することの臭さを怖れてはいけない、と。いや、好きなようにやらないと、と。

2024年9月16日



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