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「生命の中の人間の日常 その7」



 Farmer即ち農民は、日本では百姓と呼ばれてきた、と思う。「この百姓がっー!」という言い方などは蔑称である。街育ちの僕の同級生の中には、昔から冗談だか本気かは定かではないが、人を小馬鹿にした時にそのような言い方をしていた者もいる。僕が農の人になってからは、そのような言い方を耳にすることはほぼ無くなったけれど…。ヨーロッパではpeasantという労働者への蔑称があったらしい。では、百姓にはどんな意味があるのだろう?

 百の姓と書くくらいであるから、とても多くの人たち、あるいは大多数の貧しい人達というくらいの意味もあったろう、とは想像できる。こちらの地元で20年くらい前までは有機農業者の集まりをよくやっていたのだが、百姓という言葉には百の仕事がある、という意味もあるようなことを誰かが言っていた。確かに、年間40〜50品目の作物を育てていたのなら、品種も複数であるから、際限なく仕事があるわけだ。そこに付け加えるとするなら、百の生き物との関わりを持つ仕事、という側面を強調したい。

 百の仕事がある、ということは、土や草、種、樹木、堆肥、水などに関する仕事が沢山あるというわけで、それらは全て生きていることに関連することばかりだ。このような仕事の連続は、専門性に満ちてはいるが、科学的探究からは若干の距離があるのかもしれない。種や植物の根などの解明、堆肥の中の微生物の数や特定といった微細な研究からは、距離があるという意味だ。しかしながら、日常的に彼ら生き物と関わっていると、深遠な世界に関わっている気になってくる。堆肥を野菜の苗周辺に置いて、あとは微生物の力を待つ、というような作業は、化学肥料ででっかい野菜を作ってやる、という態度とは明らかに違うのだから。それはまさに、「待つ」という仕事なのである。

 この頃の人は、「待つ」ということを案外しない人が多い。出会いを求めて、若い人はアプリで積極的だ。それはそれでいいし、それで素敵な出会いがあればいいわけだ。だが、素敵な出会いのできない人もいる。タイミングや時節が違うのだろう。そんな時には、自分の仕事や好きなことに没頭して待てばいい、と思うのだが…。まあ、僕たちのような年寄りは、待ってばかりでは寿命がなくなってしまいそうな気もするが、大人になった子供達のあれこれを見ていると、待つしかないな、と重ねて思うのである。脱線しました。

 待つ、ということは、時間を費やすということだろう。そこには、対象の存在と自分ということの他に、違う生き物の存在を見て見ぬふりをしたり、あるいは知らない間に化学反応が起きていたり、というような第3者的現象をやり過ごす、という側面があるだろう。その待っている時間に農民は様々な仕事をこなしていく。科学的探求や微細な研究は、その待っている時間での様々な生き物の現象、を解明しているということになるだろうか?

 僕はそのような研究の成果を知りたいと思う者であり、それらがどのように繋がっていくかを百姓として日常に落とし込みたいのである。例えば僕達の育てた野菜がどうして美味しいと感じられるのか?の理由を知って百の仕事をしたいのだ。

2025年4月27日



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