和歌と俳句

古今和歌集

巻二十

大歌所御歌

大直毘のうた
あたらしき年の始に かくしこそ 千歳をかねてたのしきをつめ

ふるき大和舞のうた
しもとゆふ葛城山にふる雪の まなく時なくおもほゆるかな

近江ぶり
近江より朝たちくれば うねの野にたづぞ鳴くなる 明けぬこの夜は

みづぐきぶり
水ぐきの岡のやかたに妹と我とねての朝けの霜のふりはも

しはつ山ぶり
しはつ山うちいでて見れば かさゆひの島こぎ隠る 棚なしをぶね

神遊びのうた

とりもののうた
神垣のみむろの山のさかき葉は 神のみ前にしげりあひにけり

とりもののうた
霜やたびおけどかれせぬさかき葉の たちさかゆべき神のきねかも

とりもののうた
まきもくのあなしの山の山人と人も見るがに山かづらせよ

とりもののうた
み山には霰ふるらし 外山なるまさきのかづら色づきにけり

とりもののうた
みちのくの安達のまゆみ わがひかば末さへよりこ しのびしのびに

とりもののうた
わが門の板井の清水 さととほみ人しくまねば 水草おひにけり

ひるめのうた
ささのくまひのくま河に駒とめてしばし水かへ かげをだに見む

かへしもののうた
青柳を片糸によりて鶯の縫てふ笠は 梅の花笠

かへしもののうた
まがねふく吉備の中山帯にせる細谷川の 音のさやけさ

かへしもののうた
美作や久米の佐良山 さらさらにわが名は立てじ よろづよまでに

かへしもののうた
美濃のくに関の藤川 絶えずして君につかへむ よろづよまでに

かへしもののうた
君が世は限りもあらじ 長浜の真砂のかずはよみつくすとも

かへしもののうた 大伴くろぬし
近江のや鏡の山をたてたればかねてぞ見ゆる 君が千歳は