和歌と俳句

古今和歌集

巻二十

東歌

陸奥歌
あぶくまに霧たちくもり明けぬとも 君をばやらじ 待てばすべなし

みちのくはいづくはあれど しほがまの浦こぐ舟の綱手かなしも

わがせこをみやこにやりて しほがまのまがきのしまの まつぞこひしき

をぐろ埼みつの小島の人ならば みやこのつとにいざといはましを

みさぶらひみかさと申せ 宮城野のこの下露は雨にまされり

最上川のぼればくだる稲舟の いなにはあらず この月ばかり

君をおきてあだし心をわがもたば 末の松山浪もこえなむ

相模歌
こよろぎの磯たちならし磯菜つむめざしぬらすな 沖にをれ浪

常陸歌
筑波嶺のこのもかのもにかげはあれど 君がみかげにますかげはなし

筑波嶺の峰のもみぢ葉おちつもり 知るも知らぬもなべてかなしも

甲斐歌
甲斐が嶺をさやにも見しが けけれなく横ほり臥せるさやの中山

甲斐が嶺をねこし山こし吹く風を人にもがもや ことづてやらむ

伊勢歌
をふの浦に片枝さしおほひなる梨の なりもならずもねてかたらはむ

冬の賀茂のまつりのうた 藤原敏行朝臣
ちはやふる賀茂のやしろの姫小松 よろづ世ふとも色はかはらじ