敏行朝臣
秋の野に宿りはすべし をみなへし名をむつまじみ旅ならなくに
をののよし木
女郎花おほかる野べに宿りせば あやなくあだの名をやたちなん
左大臣時平
女郎花 秋の野風にうちなびき 心ひとつをたれによすらん
三条右大臣藤原定方朝臣
秋ならであふことかたき女郎花 天のかはらに生ひぬものゆゑ
つらゆき
たが秋にあらぬものゆゑ をみなへし なぞ色にいでてまだきうつろふ
みつね
つまこふる鹿ぞなくなる 女郎花おのがすむ野の花と知らずや
みつね
女郎花吹きすぎてくる秋風は 目にはみえねど香こそしるけれ
ただみね
人の見ることや苦しき をみなへし 秋ぎりにのみたち隠るらん
ただみね
ひとりのみながむるよりは 女郎花 わがすむやどにうゑて見ましを
兼覧王
をみなへしうしろめたくも見ゆるかな あれたるやどにひとり立てれば
平さだふん
花にあかでなに帰るらん 女郎花おほかる野べにねなましものを
敏行朝臣
なに人かきてぬぎかけし 藤袴 くる秋ごとに野べをにほはす
貫之
やどりせし人のかたみか 藤袴 わすられがたき香ににほひつつ
素性法師
主しらぬ香こそにほへれ 秋の野にたがぬぎかけし藤袴ぞも
平貞文
今よりはうゑてだにみじ 花すすき ほにいづる秋はわびしかりけり
在原棟梁
秋の野の草の袂か 花すすき ほにいでて招く袖と見ゆらん
素性法師
我のみやあはれと思はん きりぎりす鳴く夕かげの大和撫子
よみ人しらず
みどりなるひとつ草ぞと春はみし 秋は色々の花にぞありける
よみ人しらず
ももくさの花のひもとく秋の野に思ひたはれむ 人なとがめそ
よみ人しらず
月草に衣はすらむ あさ露にぬれてののちはうつろひぬとも
僧正遍昭
里はあれて人はふりにしやどなれや 庭もまがきも秋の野らなる