和歌と俳句

古今和歌集

物名

うぐひす 藤原敏行朝臣
心から花のしづくにそぼちつゝ うくひずとのみ鳥のなくらん

ほととぎす 藤原敏行朝臣
くべきほど時すぎぬれや まちわびて鳴くなる声の人をとよむる

うつせみ 在原しげはる
浪のうつ瀬みれば玉ぞ乱れける ひろはば袖にはかなからむや

壬生忠岑
袂より離れて玉をつゝまめや これなんそれとうつせ 見むかし

うめ よみ人しらず
あなう 目に常なるべくも見えぬかな 恋しかるべき香はにほひつゝ

かにはざくら 貫之
かづけども浪のなかにはさぐられで 風吹くごとに浮きしづむ玉

すもゝの花 貫之
今幾日 春しなければ うぐひすも物はながめて思ふべらなり

からもゝの花 深養父
あふからもものはなこそ悲しけれ 別れんことをかねて思へば

たちばな をののしげかげ
あしひきの山たち離れゆく雲の やどり定めぬ世にこそ有りけれ

をがたまの木 友則
みよしのの吉野のたきにうかびいづる泡をか玉のきゆと見つらん

やまがきの木 よみ人しらず
秋はきぬ 今やまがきのきりぎりす夜な夜な鳴かむ 風の寒さに

あふひ かつら
かくばかりあふ日のまれになる人を いかゞつらしと思はざるべき

人めゆゑ後にあふ日のはるけくは わがつらきにや思ひなされん

くたに 僧正遍昭
散りぬれば後はあくたになる花を 思ひ知らずもまどふてふかな

さうび 貫之
我はけさうひにぞ見つる 花の色をあだなる物といふべかりけり

をみなへし 友則
しら露を玉にぬくとや さゝがにの花にも葉にも糸をみなへし

朝露をわけそぼちつゝ 花みんと今ぞ野山をみなへしりぬる

貫之
小倉山みねたちならし鳴く鹿のへにけん秋を知る人ぞなき

きちかうの花 友則
秋ちかう野はなりにけり 白露のおける草葉も色かはりゆく

しおに よみ人しらず
ふりはへていざふる里の花みんとこしを にほひぞ移ろひにける

りうたんのはな 友則
わがやどの花ふみしだくとりうたん 野はなければやこゝにしもくる

をばな よみ人しらず
ありと見てたのむぞかたき うつせみの世をばなしとや思ひなしてん

けにごし やたべの名実
うちつけにこしとや花の色を見ん おくしら露のそむるばかりを