野ざらし紀行

 大和の國に行脚して 葛下の郡内と云う處は  彼千里が旧里なれば 日ごろとゞまりて足を休む 

  わた弓や琵琶になぐさむ竹のおく 

 二上山當麻寺に詣でゝ 庭上の松をみるに  凡千とせもへたるねらむ 大イサ牛をかくす共云べけむ  かれ非情といへども 仏縁にひかれて  斧斤の罪をまぬがれたるぞ 幸にしてたつとし 

  僧朝顔幾死かへる法の松 

 独よし野のおくにたどりけるに まことに山ふかく  白雲峯に重り 烟雨たにを埋ンで 山賤の家處々にちひさく  西に木を伐音東にひゞき 院々の鐘の聲は心の底にこたふ  むかしよりこの山に入て世を忘たる人の  おほくは詩にのがれ 歌にかくる  いでや唐土の盧山といはむもまたむべならずや 
 ある坊に一夜をかりて 

  打て我にきかせよや坊が妻 

 西上人の草の庵の跡は 奥の院より右の方二町計わけ入ほど  柴人のかよふ道のみわづかに有て さがしき谷をへだてたる いとたふとし  彼のとくとくの清水は昔にかはらずとみえて 今もとくとくと雫落ける 

  とくとく心みに浮世すゝがばや 

 若これ扶桑に伯夷あらば 必口をすがん もし是杵由に告ば耳をあらはむ 
 山を昇り坂を下るに 秋の日既斜になれば  名ある所ところみ残して 先後醍醐帝の御廟を拜む 

  御廟年経て忍は何をしのぶ草



奥の細道 鹿島詣
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