自給自足に近い形から、ほんの少しだけ畑作専門へと移行することは、百姓としては百姓の本分を捨て去るような、そんな思いも少なからずある。それでも、百姓としての本分よりも、自分たちの本分を、自分の本分を優先させることにした。野菜への思い、音楽への思いを大事にするということである。やはり人間というものは、得意な分野を伸ばすのが一番いい、と思うのである。あれもこれも、ということは生活者としては必要なことではある。あれもこれも、生活に必要なことには手を出していく、そのことで垣間見たものはとても大きな財産である。その上で、自分の分をわきまえて、少しずつ捨て去ることは勇気のいることだ。そして、そのような流れというものは、自分たちだけで掴み取ることのできる性質のものではなく、周囲の方々との関係の中で掴み取っていくものであると教えられているような気がする。現代においての百姓の本分は、個の中で積み重ねられた現場の泥を、個の中で熟成、昇華させて発展させていくものなのかもしれない。お決まりの形態は、やはり形態に過ぎないのだろう。