「二〇〇八年に向けて　その二」

　年末の喧噪が駆け抜け、お正月の特別な気持ちもすり抜け、三日からの出荷に始まった二〇〇八年の仕事は、一週間で早くも本格的なモードに入りつつある。十二月に入ってから種をまいたエンドウ類は、苗床で早くも畑への植え付け時期へと成長し、今日は外の世界に慣れるべく苗床から出された。同じく十二月の二十日に種をまいた葉もの類も、植え付け時期となった。人間に正月はあるが、野菜たちに正月はない。年末年始も休みなく畑へと足を運ぶと、こちらの脳みそを正してくれる、そういう気持ちにさせてくれるところが畑というものの良さの一つであろう。

　通路の造成工事も始めた。少し低くしてある通路を、さらに低くするために、トラクターのロータリーで耕して土を柔らかくし、ロータリーをダンプキャリアというバケットに付け替えて土を移動する作業だ。とった土は、畑の傾斜化のために利用する。通路を低くするのは、畑の高畦の溝からの排水を通路に流して、停滞水を極力減らすという目的のもの。大きな畑ひとつの丸ごとデザイン、その中の一作業であり、年数をかけて少しずつ行っていく作業なのである。この作業が始まると、「今年も始まったなぁ」という感じになるのだ。

　今年も集中的な雨が頻繁に降るであろう。その対策として、これらの作業は有効であるし、今までの集中的な雨で、土は移動している。肥料分とともに流れ出た土を、また畑の中央に移動することにもなる。強い雨は畑を変形させるので、元に戻す作業が必要で、どうせなら元あったものよりも良い形にしたい。それらはひとえに、畑の野菜の根のためになされる作業だ。停滞水は根を弱らせ、虫や病気を呼ぶ源になる。僕たちの野菜が元気に育ってくれること、それが年間を通して僕たちを喜ばせることになるし、野菜の届く先でもよいエネルギーを発揮してくれることであろう。「集中豪雨がありました。でも、畑の野菜は何とか耐えてくれました」と報告できるような環境をデザインしているのである。

　有機農業を推進する法律もできて、都会では有機農産物の需要も高いようであるし、多くの若い人がどんどん農業の世界に入っていく、そんな環境はとても良いと思う。けれど、企業に勤めることと違って、農家は自営業である。自営業というものは、そんなに簡単なものではない。どんな仕事も簡単なものはないが、自営業の継続性を簡単であるとは誰も言えないであろう。畑や田んぼの世界を腰かけ程度に安易に考えて飛び込んでくる人もいるけれど、どんな世界だって安易に考えていては駄目に決まっている。僕は、有機農業の世界は思っているよりも大変な世界だとは考えていないが、簡単な世界だとは思ったことがない。人間を律してくれる世界でもあるのだ。地球という概念をそのまま畑で直接見せてくれるのであるからこそ、はっきりと人間をわかりやすく律してくれる世界である。そういう意味では、簡単に地球のことを手っ取り早くわかるには良い世界である。手っ取り早くといったって、最低十年くらいは必要であろう。人間の都合でコントロールしようとすればするほど、石油製品などのゴミをはっきりと目の前に出現させてくれる。地球にどのくらい負荷をかけてしまったか、そのことを、有機農業者一人一人にはっきりと見せてくれる、そういう世界としてとても良いものである。