「人間力　その二」

　中国の農薬混入の問題は、依然として農薬の種類を増やしながら続いている。一つの工場ではなく、一定の時期のものではないことが判明してきており、背景は相当に深刻そうだ。いや、当の中国で毒性の強い農薬を使っている人たちは、ほとんど深刻に考えていないのだろう。人間の口に入るものを、どのように考えているか？これは中国であれ、日本であれ、いい加減に考えている人は、相当に多い、という証であると思う。生協というなんちゃってこだわりスーパーの実態も暴露されているわけだが、それだけ日本人はなんちゃってものに弱いということだ。人間のことを考えない食べ物は、人間力の著しい欠如の産物であるかもしれない。

　人と人の間に入るということ、これは仲裁という意味ではなく、潤滑油という積極的な意味である。食べ物であれ、作りものであれ、人の面前を通過し、別の人の口に入ったり、あるいは手で触り、使用するものであれ、人間を意識したものである以上は、その物を作ったり手助けした者の人となりが反映されたものとなる。そこに人間を感じるのである。機械でも、やはり機械の背景にある人間を感じることで、愛着の度合いは増していくことが多い。便利なモノがあふれかえっているので、いちいち一つ一つのものに「ほう」といって感心していたならば、きりがない。が、僕の場合は、こと食べ物に関しては、いちいち背景まで知りたくなってしまう性質だ。食べ物でなくたってそうだ。一つのものを調べれば調べるほどに、使えば使うほどに、結果的には良いものを求めてしまう。そして、良いものは安くはない。あまり高額なものには手が出ないから、極を極めるということはないのだが。

　僕たちの農業という世界で、僕が一番気に入っている点は、子供を育てる環境がよい、ということである。農業を、とくに有機農業を大きなビジネスチャンスととらえる人もいて、それはそれでいいのだが、子供を育てる上では、裏表のほとんどないこの世界が、実によい教材になっていると思う。そういう意味で、僕たちもしっかりと稼いで子供の学費をねん出しなくてはいけないが、ビジネス一本やりで子供との時間が少ない、ということだけは縁遠いことであるとしたい。その子供を育てる上で、子供に身につけてほしいと思っているのが、人間力である。人の上に立ったり、人よりも目立つことをしなくてもいいけれど、人と人の関わりの機微だけは、しっかりと観察できる人間になってほしいと思う。観察して得た事実を、どのように使うか、あるいはまったく使わないか、どちらでもよい。事実を得たのだから、その事実を捻じ曲げることだけはしてほしくない。そのことを親が推し進める時に、やはり親子の時間は必要になってくる。間違いは必ず存在するものであるから、間違いを時間の中で見つけて解決していく必要があるのだ。

　競争社会は、確かに伸びる。が、例えば、「その農薬は必要ないのでは？」「その農薬は使いすぎですよ」などと考えた人が意見できる競争社会でないと、上に行ったものの勝ちになる。上に行ったものは、どこかで失態をやらかすまで立ち止まらないものだ。そして、上に行こうとすればするほどに、人の気持ちを軽視しがちになる。一人の人と一人の人を少しずつ広げていく、そのくらいの歩幅が一番信頼できるのだ。