「ばっくれる？」

　月曜日、配達に行った先で、福田総理の辞任の意向のニュースを教えてもらう。寝耳に水だ。別に自民党支持者でも何でもないのだが、一国の総理大臣がまたしても「やーめた」と職を放り出すのだから、誰だって驚く。一年前に続いて。そして、結果として議員さんたちは、気色ばんでいるように見える。と言うか、生き生きしている、ように見える。当の福田さんは、見通す目があるからやめるんだと、これまた胸を張っているようにも見える。けったいな世の中だ。これでは、子供たちに何を教えろ、というのであろうか？

　もう三〇年近く前の話だが、学生のころ、郷里から大挙して上京した同級生たちと、アパートで群れていた。毎日のように皆で飲んでいた、ような記憶がある。二日酔いの翌朝、あるいは夕方、学校やアルバイトに出かけようとする者に、「やめっちゃえー！！」コールを発して、皆で堕落を決め込む、そんなこともあった。皆で堕落を決め込んだら、さーて飲むぞー、とまた盛り上がるのである。今の自民党、そこまでとは言わないけれど、似たようなものである。違うのは、酒の肴が国民である、ということだ。

　その頃、アルバイトを何種類かやった。アルバイトを欠かしたことはなく、いろいろな人が働いていたことを思い出す。東京では、仕事当日になって勝手に連絡もせずに仕事を休むことを、「ばっくれる」と言っていた。田舎から上京した者にとって、初めて聞く言葉だった。アルバイトを不定期でしていて、アルバイトに行くこと自体を忘れる、そういうことではなく、意図的に当日アルバイトを無断で休む、ということである。そんなことを平気で出来る人が、日常的にあちこちに存在した。僕には、そんなことのできる勇気はなかったし、いまだに持ち合わせていない。総理大臣も、ばっくれてしまったのだろうか？変わった勇気の持ち主である。

　だいたい、責任ある仕事をする人が、仕事を辞める時には、最低三か月前にはその意思を示して（アルバイトの場合はひと月程度？）、引き継ぎなり何なりを行うものである。アメリカ大統領だって、レイムダックと言われようと、最後まで任期を務める。どんな仕事だって大変なんだから、一国の長たる者は、仕事ができようとできまいと、せめてそのくらいの範は示してほしいし、できないなら引き受けないでほしい。子供たちも将来、「やーめた」と言うことを平気で言うだろう。いきなり何事かをやめても、考えた末に先を見通してやめました、と言うに違いない。

　国の堕落は、官庁や国会議員が率先してやるものらしいし、きっと、教育なんてものはそういった一部の頭のいい人たちを締め出すためにあるのかもしれない。どんな悪事も一部の人がやるものである。悪い人ばかりでないことは、庶民を見ればわかるだろう。もっと労働の現場をわかる人に国を動かしてほしいと思う。現場を理解する人は、そう簡単に「やーめた」とは言わない。粘りがあり、執念がある。二世三世の国会議員が、第一次産業、第二次産業を長く勤めた経験があるだろうか？子供と一緒にこんなニュースを見ていて、教育は親がするもんだな、とつくづく思う。他人任せは確かに楽だが、この目で見たことを伝えていく、その現場こそが必要なんだ、と改めて感じる茶番劇だ。