「秋の農繁期は玉葱の種播き週間」

　台風十三号は、目の前の太平洋の遠州灘沖を過ぎて行った。致命的な被害はなかった。が、被害が何もないわけではない。オクラの樹もほとんど倒れなかったし、ナスもモロヘイヤも傾きもしないくらいの風であった。しかし、数日たってナスの樹勢が衰えてきたのは、やや吹いた潮風のせいであろう。もう少し近い進路の台風であれば、大きな打撃であったろう。不幸中の幸いだが、小さな被害も大きな被害も懐に収めるのが、一匹狼的百姓の常である。

　台風の後も雨であった。延期された運動会も、何とか２日遅れで無事終わった。畑には、水がたっぷりで、思うような作業はできない。苗床いっぱいに、キャベツや白菜、葉ものなどの苗が並んでいて、いつになったら畑に植えてあげることができるやら、もう少しの辛抱をしてもらうほかはない。それでもようやく、最後の胡瓜の収穫が少しだけ始まった。

　超極早生の玉葱の種まきは十四日に済ませてあったが、本格的な玉葱の種まきがとうとう始まった。いわゆる玉葱の種播き週間である。ほぼ一週間で、早生から貯蔵種までいっきに種まきを終えてしまうのだ。毎年のことながら、気合いの入れ直しである。ここで気合が入りすぎると、秋祭りで過労が出てしまうし、かといって中途半端な気合いで乗り切れるほど甘くない。秋冬野菜の一番の農繁期であるから、良い塩梅を見極めなければいけない。どんなに機械化したところで、僕の代わりは僕しかいない。他の人ではだめなのである。他の人でも大丈夫なようにするのが組織かもしれないが、人に任せて野菜の気合を損ねるくらいなら、倒れたって僕がやるほうがよい。このとんでもないくらいの状態の土を知っているのは僕たち夫婦だけだから、そこをうまいこと自然治癒力のようなもので畑の力を最大限に発揮してもらうために、僕たち夫婦が働かざるを得ないのである。それが、百姓の本分である。

　今夜は、目いっぱい仕事をやった後だから、汗ぐっしょりのつなぎ服を洗濯機に入れて、冷たいシャワーを浴びた（この夏は気持ちいいから冷水を浴び続けた）。汗をぬぐい、食事をとってから、玉葱の種を播いた。２８８穴トレイで３５枚である。品種はターザン。気合を入れるために、時間を計った。夜８時５０分からトレイの土詰めをして（トレイなどの準備は食事の前にしておいた）、９時２５分には土詰め完了。穴あけに。１５分、コート種子を吸引播種機で播くこと２０分くらいか？バーミキュライトの覆土を終えて、１０時２０分くらい。上出来である。外に出して、ジョロで水をやり、そのままトレイを外に積んで、片づけを終えて１１時前である。午前〇時を回ってしまうことも覚悟していただけに、この気合には満足である。

　 　人の仕事は、切磋琢磨である、という一面は確かであると思う。だが、競争は好きではない。今日やった玉葱の種まき作業を、他の人と競争するとしたら、最初からやる気は失せるであろう。競争するならば、相手は自分である。どんな甘えもどんな厳しさも、自由自在の自分である。自営業者の自由とは、本来そこにあるものだ。何をしたっていいんだ。人間として、自然環境の一員として、何をして満足するか？ それも自分次第である。

2008年9月25日　寺田潤史

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