「秋を積み重ねて」

　週末には寒気が北の方へやってくる、そんな予報が出ている。週末は地元の秋祭りで、その秋祭りの前触れとして、金木犀の芳香が強く漂っている、季節通りの秋真っ只中だ。夏が長引いて、秋は短く、冬がもうすぐそこまで来ている。去年もそうだった。そのことに拍車をかけている印象がある。農民にとって、秋はとても貴重な季節であり、夏を切り抜けた安堵と農繁期のせわしなさが同居する季節である。貴重であるのは、冬支度のための短いが濃厚な時間を持っているためである。濃厚であるのは、日が短くなっていくのにやりたいことが山ほどあるためである。

　今日は出荷を終えて、さつまいもをざっと掘り上げた。夏の暑さが長引いたせいか、イモの肥大が遅い。去年より早く植え付けたのに、イモの収穫開始はひと月近く遅かった。ここへきてグンと涼しい夜が続いたので、イモの肥大が加速したようである。とはいえ、五月末植えのイモを収穫しているくらいだから、肥大が遅いことに変わりはない。次の六月中旬植えのものは、まだ肥大していないのだ。トラクターに装着したイモ掘りアタッチメントで五月末植えの「安納芋」と「寿」をいっきに掘り上げた。

　雨の前に播いたホウレンソウの芽が出ないうちにと、マニュアスプレッダーで堆肥も散布した。この自走式積み込み堆肥散布機は、購入してどのくらいたつだろうか？２００２年の資料を見てみると、平成１１年４月購入とある。まる９年を過ぎている。老朽化するわけである。オーバーホールした部品がいくつかあるし、どうもエンジン回りも調子がいま一つだ。散布には馬力を食わないのだが、堆肥を積み込む時に馬力を食う。そこで、今年やってきた古いバケット付きのトラクターを活用している。こちらは、難なく堆肥を積み込む。雨のあとのグジュグジュした堆肥でさえ、簡単にすくい上げる。マニュアスプレッダーではそうはいかない。バケットですくった堆肥を、マニュアスプレッダーに落とし入れる。マニュアスプレッダーは、自走して散布するだけである。これは、実に省エネである。馬力を食わないから、ガソリンもあまり減らない。老朽化したら、やり方も工夫してみる。バケット付きのトラクターは、思わぬところで活躍している。

　日中は陽射しも強く、汗だくになって作業している。この頃は運動のために、全速力に近い感じで畑を走って移動することが多く、余計に汗だくになる。夜は涼しく、まさに秋である。その合間の夕方は、蚊だらけである。暑さが終わりに近づくと、虫たちも必至である。その虫たちと、僕たちはたいして変わりがない。冬の前に、やるべきことが山ほどある、そのことが全く同じである。しかし、一度にそう沢山のことができるわけではない。昨日までに、白菜やキャベツ類を、場所のある限り植え付けることができた。着実に、一つ一つ丁寧に作業をこなし、次へ移る、これはどんな仕事も同じだが、虫たちと同じなのは季節の順番があるということだ。植え付けが終わって初めて、収穫できるものもある。毎日収穫するものもある。常に、気候が最優先するのである。そうして、秋を一つずつ積み重ねていく、そこに農民のもっとも趣のある部分が存在している。濃厚な秋を、一つずつ掴んで、積み重ねて、結果として冬をいただく。一つずつ掴んだ秋は、一夜のうちに秋へと手放し、秋の夜長を手に入れるのだ。

2008年10月9日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見ご感想は、下記よりどうぞお寄せください。