「２００８年　今年の総括　その二」

　ようやく冷たい風が吹いてきた。それでもまだ、遠州の空っ風には程遠い。少し寒くなって、少しだけ年末らしい雰囲気が出てきた。師走は師走らしいのがよい。子供たち中心のにぎやかなクリスマスも、もう寝静まった。しかし、喧噪は終わらない。年末ぎりぎりまで、目一杯に働くつもりだ。仕事があるだけ、まだましだよ、僕たちは。

　クリスマスの今日、出荷をあわただしく済ませて、僕は玉葱をまた植えていた。トラクターで畝立てすると、乾燥していない畑は、ぬかるみを多く含む粘土様の状態であった。今年新調した畝立てアタッチメントマルチ仕様はほとんど役に立たずに、畝立てした後に鍬で土を生分解マルチフィルムの裾にかけていった。以前よりよくなってきた畑の土であるが、まだまだ世間一般のレベルまでに物理的に追いつくには時間が必要のようだ。借金をして、機械の数々を購入したのは、この畑の物理性にある、と言ってもいいかもしれない。この畑でなかったら、ここまで機械化する必要はなかったかもしれない。それくらいに大変な畑であることに変わりはないのだ。

　僕が鍬で格闘している畑の南側では、相変わらずに土建屋さんたちが、道路拡張工事をやっている。雇われている人は、もくもくとこき使われているようだ。彼らは一日働けば日当がもらえる。こちらは、畑の土と格闘したところで、一銭にもならない。畑と格闘してようやく、玉葱を植え付ける準備が整うだけなのだ。これから玉葱を植えて、五ヶ月後にようやく玉葱を収穫できる可能性にありつける。そのあとに、また一年かけて玉葱を売って、お金を頂ける、というわけである。僕たちは、未来の可能性を信じて作業をする、そんな毎日を送っている。

　今年は、ファーマーズマーケットという新たな野菜の売り先を増やした。個人のお客さんや、レストランなどが一つ新しく増えた、ということとは違って、不特定多数の人の、ランダムな買い物の中の選択肢のひとつとなった、と言えるだろう。自然食品店へ行かれる人は、はじめから有機野菜を視野に入れて買い物に行く。それは、不特定多数とは言えず、特定少数と言えばいいのかもしれない。そのことに対して、不特定多数の人が訪れるファーマーズは、新鮮な野菜を買いたい人が行くところ、と言えるだろう。その場所で、野菜が選ばれる、ということは、とても興味深いことである。しかも、朝、昼、晩と一日三回の各野菜の売上の報告がメールでなされる（その上、必要であれば、いつでも電話で売れた数を自動で確認できる）、そのことがまた興味深いのだ。つまり、何の野菜がいくつ売れたから、次に野菜をどれくらい収穫すればいいか、そのことを即決できるのである。

　リアルタイムに近いところで、野菜が選択されたかどうかがわかる、これが農家にとっては大きな喜びの源になる。簡単に言えば、やる気につながるのである。誰に言われるわけでもなく、自分たちで出荷個数や値段を決めることができ、また残ってしまったものも自己回収するので、誰かに迷惑がかかることが限りなく小さいのだ。出荷の楽しみが増えた、と言ってもいい。玉葱を年末ぎりぎりまで植えて、大晦日までファーマーズで野菜を売って、どうにかこうにか年を越せそうだ。ありがたや、ありがたや。

2008年12月25日　寺田潤史

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