「降りそうで降らない６月の雨」

　玉葱の貯蔵種「もみじ３号」を、例年よりも早めに収穫し終えたのは気分がいい。翌日畑を歩くと、もみじ３号が片付いたことはもはや遠い昔のことのようで、やり終えていない仕事のことで急かされる思いでいっぱいになる。とはいえ、焦ってもしょうがないので、ゆっくりと畑を回って、いろいろな段取りを頭の中で巡らしていく。四角四面に考えたって野菜は育たない。畑の土と野菜の組み合わせをイメージし、ここなら育ってくれるだろう、という組み合わせを腑に落としていくのである。

　今年は、サツマイモの苗が例年よりも早く育った。植え付けは例年並みか、それよりもおそいくらいだった。この分なら早く植え付けられる、と思っていた。しかし、天候は相変わらずに極端すぎるし、出荷も多い５月だったし、何よりも収穫の嵐でもあった。そこへ、電話が入る。 「サツマイモの苗を分けてくれよ、安納とか何とかいうやつ」
僕よりも年上の有機仲間からの電話だった。分けてあげたいのは山々だけど、こちらの植え付けがまだ始まってもいない。今年は、安納芋の植え付けを大幅に増やす予定でもある。
「もうちょっと待ってね、第一弾を植えたら、とりあえず…」
と答えた。そのあとも、サツマイモの植え付けまで、なかなかたどりつけない。遊んでいるわけでもないのに、たどりつけない。そこへ今度はメールが入る。
「安納芋をすべて腐らしてしまいました。苗を分けてください」
去年まで手伝いに来ていたＭ君である。独立してがんばっているのかどうか、心配していたが、苗のことしかメールには書いてない。７月まで待ってくれ、と答えた。さらに、別の仲間から、「サツマイモの苗、あります？」
うちは、苗屋じゃないんだから、あらかじめ欲しい、と言ってくれてあるならまだしも、急に言われても…。確かに、サツマイモの品種にはこだわって、いろいろ集めた。それを仲間にも渡した。僕がサツマイモの苗を用意できないときには、仲間に分けてもらった。持ちつ持たれつである。僕の苗がこけたときには、仲間のサツマイモの植え付けが終わるのを待ってから、もらいに行ったこともある。だから、うちの冬の基幹作物の一つであるサツマイモの植え付けを急ぎたかった。でも、それがなかなかできない。

　今日、ようやく安納芋を１００本あまり植え付けた。気持ちは、やれやれである。昨日から、サツマイモ用に、紙マルチを張っている。サツマイモには紙マルチが断然いい。この亜熱帯の夏の高温には、地温抑制効果のある紙マルチがよい。降りそうで降らない雨を味方につけて、ようやくサツマイモの植え付けである。気分が楽になった。一度苗を切ってしまえば（サツマイモの苗のツル切り）、次のツルは梅雨にかこつけてどんどん伸びる。降りそうで降らない雨は、一度降りだしたら、今度はなかなか止まない雨となるだろう。もう梅雨だもの。降りそうで降らない雨は、葉ものへの井戸水かん水を躊躇させてきた。降りだしたら止まない雨が、今度は葉ものを助けてくれる番である。

2009年6月4日　寺田潤史

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