「世代の悩み　その二」

　今、ディープパープルの「バーン」を聴きながらこれを書いている。高校の頃聞いていた音楽は、あこがれを持って聞いていたと思う。今、こういうバンドをやろうとも思わないし、ああいうギターを弾きたいとも思わない。しかし、ああいうやり方も一つのやり方として一時代を生きたんだなあ、とも思うし、余裕をもって演奏をしているなあ、とも思う。Ｊポップなどとは違って、理にかなったやり方だなあ、とも思う。リードギターでは、実に良い音を出している。

　先の同窓会の時、隣に座ったＪＹさんと少し話をした。今は小学校の先生をしていて、養護学級を受け持っているそうだ。詳しくは、AD/HDと呼ばれる多動性障害の児童を受け持っているとのこと。まだ原因特定ができない分野の障害で、いろいろな見方があるようだ。先生としての立場としては、「自立してくれること」が目標である、というようなことをＪＹさんは言っていた。その言葉を聞いて、僕も自分のことを少し話した。

　実は、去年までうちに研修生として働きに来ていたＭ君が自殺したのだ。今年の六月の初め頃、ほかの農業青年から、メールをいただいた。「Ｍ君が亡くなられた、と聞きました」と。寝耳に水だった。一瞬、頭が回らなくなった。すぐにその青年にメールを返し、電話をもらって事情を聴いた。亡くなってすでに一週間が過ぎていた。亡くなる数日前にＭ君から久しぶりのメールがあり、「サツマイモの苗を分けてほしい」という内容だった。「うちも植え付けが遅れているし、すでに他の予約も入っているから、七月に入ってからなら分けることができると思うよ」というような返事をした。またメールをくれて、「ありがとうございます。気長に待っています」との返事だった。また、彼は車を運転しないので、農業仲間の勉強会には、いつも彼を乗せて一緒に行っていた。最後に行ったのが今年二月の勉強会で、その時が彼に会った最後だった。

　彼は、二年ほどうちの農園に断続的に通ってきていた。精神的に病んでいることは分かっていたが、最初の一年は様子うかがいのような感じで見てきた。他の仕事先もいろいろ経験してみるようにも伝え、実際にいくつか仕事をしたが、長続きはしなかった。でも、農業は好きだ、という。それなら、農業で食っていけよ、と言うと、「職業にはしたくない」とかたくなだった。それが、今年のはじめの新年会で会ったときに、農業で自立することにしました、と言った。「自立してくれること」が、僕にとっては一番うれしいことであるので、不安はあるがほっとした。その後、畑の面積を広げたり、田んぼを借り入れたりする中で、近所の方とトラブルもあったようである。でも、まさか？である。僕はショックを受けた。まだ続いている。

　その話をＪＹさんに話した。「自立してくれること」を目標にしたことも間違っていたのかもしれない、と僕は言った。そんなことはないよ、とＪＹさんは言ってくれた。いまだに僕の中では、自立してくれることを望むのが果たして本当に進む道なのか、迷いがある。ただ単に、受け入れる、だけを続けることも選択肢としてあったのではないか、などとも思う。僕たちの世代は、自分たちが生きることにも精一杯だが、人を育てることにも心を砕く世代である。ストラトキャスターのナチュラルトーン、のような生き方をしたい。

2009年8月26日　寺田潤史

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