「子供を自由にさせること　その一」

　十日、十一日は地元の祭りだった。台風被害のあとで、気分転換と時間を置くという意味で、良いタイミングの祭りだった。睡眠とアルコールをよく摂った二日間だった。そして、旧友との時間もよく摂った二日間であった。

　ここ数年、地元の祭りは、同窓会のような様相を帯びている。小学校、中学校の時の旧友たちとの同窓会に近い。小学校以来、三十五年以上たって再会した同級生のＫ君もいる。彼は、横浜から、この祭りを楽しみに帰省してくるのだ。昔の面影を思い出せないほどに変貌しているが、同級生というだけで話が弾む。また、毎年、祭りの時だけ話す同級生もいる。こんなに小さな町に住んでいても、祭りの時にだけ顔を合わせるということも不思議なことではある。

　祭り二日目の夜、同級生のＹ君と久しぶりに話した。彼とは、毎年顔を合わせて挨拶するくらいだった。屋台（山車）が２０台以上並んで、練りの盛んなそのとき、路肩に座って後輩らしき人としゃべっていた。そこへ、僕が彼を見つけ、
「お〜、久しぶり」
と声をかけた。なんだか少し、お疲れの様子も見て取れる。
「まだＨ君のところ(車関係の仕事)へ(働きに)行っているの？」
と僕がきいた。Ｙ君は答える。
「Ｈ君の所もこの不況でもうダメで、彼自身ももう車関係の会社の下に入って、俺はもう別のところへ(働きに)行っている。植木屋だよ。同級生のＮ君の弟がやっている植木屋へ行っているんだよ。おまえと同じでお天気仕事だよ」
と意外な答えが返ってきた。そこで、また僕が尋ねた。
「子供は？」
「上の子が大学へ行って、今フランスに留学しているんだよ。下の子も、進学させようと思っている。俺はおまえらのように、高校卒業して自由にやることができなかったから、せめて子供には好きなことをさせてやりたいんだよ。借金だよ、借金。大変だよ」

　穏やかだが、強い決意を感じさせる言葉だった。そうか、彼は僕たち大学へ行った人間をそのように見ていたんだな、と今更ながらに感じた。Ｙ君は、高校卒業後、すぐに家業の織物業を継承した。あの当時、漁師の友達も含めて、家業を継いだ同級生が何人かいる。彼らは偉い、と思っていた。でも、彼の本音は別にあったんだ。それを、今、自分の子供に託している。それは、子供を自由にさせることで得られる夢、のようなものかもしれない。

　あの当時、大学に進学した僕は、大学に失望し、すぐに大学をやめようと思っていた。結局、５年かかって大学を卒業したのだが、その学歴を生かしたことはない。しかし、Ｙ君は学歴ではなくて、自由が欲しかったのだろう。僕は思い返す。僕の親父もまた、家の都合で大学に進学せずに、家に入って仕事をした一人だ。だから、僕たち子供には、好きなようにさせる数年間を用意した。僕もまた、子供たちに対して、借金をして大学に行かせるのだろうか？僕は思う。制約のあるくらいの環境のほうが、やりたいことを貫く意思に、工夫というプラスアルファを加えることができるのではないか？どちらにしても本人次第であるが、親としては見守る環境が必要だ。見守る環境には金銭も含まれ、その時々の選択も迫られる…。

2009年10月15日　寺田潤史

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