「休みのない仕事」

　あの雨の多い春は遠い昔のように、畑はからからに乾いている。井戸水を出し始めて、今日で４日目。一度も井戸水を止めずに、畑のあちこちに散水し続けている。乾いた畑を、トラクターで草刈りすると、白い土埃で視界がなくなる。湿度を感じない空気は、梅雨とは別次元の世界を演出する。ここぞとばかりに、畑の隅の草を刈払い機でなぎ倒している。

　日中は暑いが、朝晩は涼しく、湿度も低いので過ごしやすい六月である。玉葱の収穫は、最終段階に入った。こんなに長く雨が降らないので、前回収穫した玉葱「ターザン」は、よく乾いたところで軒下に収納することができた。今日から晩生種「もみじ３号」の収穫に入った。毎年、雨の合間を縫って収穫する玉葱だが、今年は余裕がある。お天気に余裕があるのは、精神的にも気が楽だ。お天気に余裕があっても、やるべき仕事は相変わらず山積みされているので、ちょいと働き過ぎだ。この玉葱の収穫と並行して、ジャガイモの収穫も進めなければいけない。仕事を一つずつこなして仕事を減らしても、いつまでたっても仕事は山積みされたまま。次から次へと新しい仕事が出てくる。畑を見回ったなら見回った分だけ仕事は見つかる。そういう季節なんだね。

　ずっと休みのない日が続いたが、先月の２２日にはライブを久しぶりにやって半日休んだ。そして、先の日曜日には、地元自治会の防災視察で朝から出かけ、午後は防犯パトロール、そのままお疲れさんの短い宴会だった。丸一日、仕事をしなかったのは本当に久しぶりのことだ。強制的に用事を言い渡されて初めて仕事が休みになる、これでいいのかどうなのか、２０年間ずっと考え続けている。相手は年間６０種以上の野菜だ。品目が多いということは、その成長具合に合わせて、何らかの仕事が存在する、ということになるのだ。当然、すべての面倒を完全な形で見るのは無理で、大雑把に、半ば放任主義のようなそうでないような、そんな感じで育てる野菜も多くなる。畑を見回って、やらなけりゃいけないなと思うことは、やったらやっただけのことが成果として上がることばかりだ。そういったことを先延ばしにするか、あるいは放棄するか。週末は休み、と割り切ることが僕たちにはできない。

　小学校に入ったばかりの四女が、この頃言う。お父さんとお母さんは、本当に畑が好きなんだね、と。畑が嫌いでは仕事にならないけれど、ね。相手は生き物だ。植物というものは、日々是成長する。その成長の具合が好きだ。彼らは、前しか向いていない。人間だって、前を向いている人は、応援したくなる。これが生き物の性質なんだ。

　例えば、毎朝人工交配するズッキーニ。この野菜は人工的に育種されて育ってきた品種なのか、人工交配しないとしっかりとした実にならない。雄花をとって、雌花にキスをさせるのだが、雌花も雄花も花の状態が日によって違う。雌花は大きく花を開いている状態がよい。雄花は花粉が多いものがよい。株がまだ小さい時には、実をあまり大きくしないで収穫する。そのように、毎日交配していても、その日によって接し方は違う。こういうことは、毎日見ているから、その変化を感じ取ることができる。ズッキーニの花に休みはないのだ。

2010年6月3日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見、ご感想、お問い合わせは、下記よりどうぞお寄せください。

★　ひらく農園の野菜の入手方法

☆　このページの最初に戻る