「手助けというエネルギー」

　毎日毎日、仕事に明け暮れる。収穫、出荷、最後に農作業、という感じで、気がつけば１９時をとうに過ぎている、という日々だ。日が長くなったから、農作業の時間を粘るだけ粘る。定時という概念がないので、すべて個人の選択制である。今日も、じゃがいもを収穫して日が暮れた。いやいややるような仕事ではないので、苦痛ではないけれど時間に追われることは仕方がない。冬なら無いに等しい作業時間を、この季節ならひねり出すことができる。

　昨日は、近くに住むＹＴさんが、農作業の手伝いに来てくれた。２時間弱の時間があるという。ナスの誘因作業をしていただいた。畑に植え付けられたナスの樹が大きくなってきていた。当初止めたプラスティックの留め具を、現在の立ち姿に合うように留め直していただいたのである。この作業、ナスとの対話が必要で、ＹＴさんにぴったりかな？と思った次第だ。

　ナスの樹は、当たり前だが成長する。成長に合わせて人間は手を差し伸べるのだ。ナスの第１果収穫直前という成長具合であるから、人間でいえば成人前くらいであろうか？中学生高校生の時期かもしれない。彼らは、今成長盛りである。足の靴のサイズがあわなくなって、靴を変えるようなそんな作業が、誘因クリップの移動だ。人間の中学生高校生の時期は、多感な時期だ。親が考えていることと子が考えていることの角度が全く違う、ということは少なくない。どちらかと言えば、親の言うことよりも他人の言うことのほうが耳に入りやすい、そういう時期だ。ナスだって、目いっぱい枝や葉を伸ばす。あたりかまわず新芽を伸ばす。ぱっと咲いてぱっと散る、それでも植物としては満足なはずだ。

　ところが、人間はナスに長く生きて長く実をつけてほしい、と願う。人間の子供にも、長い人生を実り多く、と願う。人間が願うナスの樹の形をナスに押し付けるか、ナスの樹の生まれ持った性質を人間が汲み取るか、大抵は後者を選ぶはずだが、多くの場合いつの間にか前者になってしまう。ここが難しいところだ。人間の子供には、社会というもう一つの親がいるので、なかなか個性を伸ばしたまま成長していくということが難しい時代だ。

　僕たちは、子供たちの意思を尊重したい。放任とは違うが、子供の意思、特に強い意志は応援したいと思う。強い意志とは何か？それは、それまでの過去よりも強くこうしたいという思いであり、さらに言えばそれを形にしようと努力することだ。意思とは形なのである。そして、周囲はそれを汲み取らなければいけない。ここが大事なところだ。意思という形には、周囲の存在が強いエネルギーを与える、ということ。ナスの樹が成長し、放任に近いような状態になった時、ナスの苗を植え付けた僕は、毎日ナスの樹の傍らを歩いてみてきた。そろそろ、手助けが必要な時期だ、と思っているところへ、ＹＴさんは訪ねてこられた。ナスの樹の意思に、周囲の存在である僕やＹＴさんが、手助けという形のエネルギーを注いだのである。手助けというのは、その人にしかできないことを伸ばしてもらうために周囲が差し伸べるエネルギーのことだ。手助けなしに生きている人は存在しない。そして、自分が手助けされた経験を思い出して、他者を見る。ＹＴさんの前に向かうエネルギーに、僕たちもまた助けられた。

2010年6月10日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見、ご感想、お問い合わせは、下記よりどうぞお寄せください。

★　ひらく農園の野菜の入手方法

☆　このページの最初に戻る