「涼しいって素晴らしい」

　梅雨明け二日後から、井戸水を２４時間出し続けてきた。井戸水の出どころをとっかえひっかえ違う野菜の畝に取り換えながら、この酷暑と戦ってきた。その井戸水を、１０日ぶりに止めた。予期せぬ嬉しい雨が、日本列島を横断している。大雨で、各地に被害が出なければいいが…。

　涼しい夜にぐっすりと眠った。この頃は、最低気温２６度くらいが続いていたので、とても寝苦しかった。それが今朝は、２５度を割って、涼しい風が吹いた。朝の収穫は気持ちがよかった。若干、暴風雨の様相を見せていたので、ナスの支柱をぐいと差し込み直しながら、ナスを小ぶりのうちに収穫した。暴風雨になれば、大きなナスはナスの樹に負担をかけるのだ。通常なら、休み休みの作業になるのだが、涼しいということは、全く疲れを感じないことに気付いた。作業はやはり、こうでなくっちゃ、ね。酷暑たる直射日光の威力はすごい、ということを今更ながら感じた。そして、下着の上に合羽を着ていたのだが、汗も出なかった。汗がでなけりゃ暑くないわけで、不快さも感じないのだ。じっくりと作業ができる。

　この１０日ほどの酷暑は、知らず知らずのうちに体力を消耗させていたようだ。汗の量も多いから、水分も多く摂る。家の中には扇風機しかないから、納屋のエアコンに当たる。それがまたよくない。疲労が蓄積してくると、エアコンや扇風機を避けたくなる。とりあえず、飲むものは常温のものにした。そうすると、体調は戻る。冷えたものを多く摂りすぎて、胃腸も弱ってきたのだろう。

　今夜は配達がなかったので、焼酎を飲む前に、長女とホルンの話をした。長女は、中学で吹奏楽部に属し、ホルンを吹いている。ちゃんとした人について習うのがよいのだが、そこまでの気迫はまだない。だから、インターネットで検索して、ちゃんとした人の練習方法を見つけてみる。僕の場合には、ギターに置き換えて考えればいいので、知らない楽器のホルンも、練習方法のイメージはできる。ギターで弾いてみせる。ついでに、娘にギターを持たせて、弾かせてみた。

　そんなとき、まくわうりを食べる。まくわうりは、常温でなくて冷えたものがいい。食べると、あまりのおいしさにからだが喜んでいるのがわかる。味がおいしいというのではなく、からだがおいしいと感じているのだ。味は、メロンのように甘くない。淡泊だが、胡瓜よりは甘い。これは、子供の頃食べた記憶が残っているからおいしく感じるのだろうか？疲れているからおいしく感じるのだろうか？暑くて汗をかいた時、これほどおいしいものがあるか？というくらいにおいしく感じる。まくわうりに助けられている、と感じる。

　この頃は、野菜や果物でも、糖度を売り物にするものが増えている。糖度をいかに高くして、そのことを宣伝し、たくさん売ろう、というのが一般的になってきている。まくわうりは、そういう流れとは相反する野菜だ。風味とか季節感あるいは薬効のようなもの、と言えばいいだろうか？薬味のように、何かに添えるものとも違い、単体で食べる野菜ながら、糖度の高さではないもので自己主張できるのだ。

　これから、また酷暑に戻るのだろう。でも、ほんの一日二日でも一息つけたことは大きい。酷暑の連続は、精神的にもダメージを大きくする。一つの変化は、また必ず次の変化につながる。今日の涼しさの中で、僕は西北の空に秋の気配を感じた。もしかすると、今年の秋は早いのかもしれない。いや、これは一種の錯覚かもしれない。でも、その錯覚すら信じてみようと思う。秋冬野菜の準備に取り掛かろう。酷暑には、井戸水とまくわうりに助けてもらって、前に進むのだ。涼しいことがこんなに素晴らしく感じた朝、を思いながら。

2010年7月29日　寺田潤史

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