「夏休み２０１０」

　この夏も、一日の休みもなく終わりそうだ。でも、ギターはよく弾いているし、子供たちとの接触も多すぎるくらいで、どこかへ遊びに行かなくたって人間をやめているわけではない。そりゃー、休みをとって川にキャンプにでも行けば、それはそれで面白いだろうし、でもそれは基本的に都会の人間がすることで、ここにはドカンとした田舎があるからね（ここっていうのは、この街のことではなくてうちのこと）。三女が、
「朝早く起きて涼しかったから窓を開けておいたら、カブトムシが部屋の中に飛んではいってきてまた出ていった」
と伝える、その環境で十分である。４歳の長男が、
「バッタが飛んだ」
と追いかける姿に，僕が
「そのバッタは足が片方ないだろう？だから羽を使って飛んで逃げているんだよ、つかまえちゃいかんぞ」
と長男に言葉を投げかける、その環境が生活というものである。

　僕も都会に住んでいるときには、とにかく田舎の景色を欲した。都会に住んで最初の数年は、そんなこと考えもしなかったのに、アスファルトとビルに囲まれたような生活にだんだんと違和感を覚えるようになっていった。今、子供たちに必要なことは、このくそ暑い夏を体感し体に刻みこむことである。最近の建材でできた部屋に閉じこもっていれば汗疹ができるし（エアコンなしの環境だから）、外で遊んでいれば木陰が涼しいけれど蚊に食われる。雨の後に水をためておけばボウフラがわくし（これが蚊の幼虫だと説明もする）、カラスはカブトムシすら食べにくるものでもある。都会の人が川遊びや海遊びをすることには、日常でそういうことができないこと、目にできないことなどへの自然な浄化作業の一つ、という見方もできる。僕が田舎の景色を欲した２０数年前には、４０年前の子供時代を体が思い出したということなのかもしれない。

　現代では、一つの教えというものが存在しない。あまりに情報が行き交い、正しいものを判別することが困難な時代と言えるかもしれない。しかし、人間は、その時々に、選択を強いられる。正しいことを選択するのではなく、自分の選んだことである。子供たちに教えることは、自分のしたことであり、大人がしていることの説明である。大人が大人であることの特権の一つは、議論することや他者の意見を聞くことで、自分の考えを修正していくことである。これは大人だけの特権ではないが、子供に教えるという役割を持つ大人は、間違いを修正しながら生きていかなければならない。昔の大人と今の大人の大きな違いは、自分の考えを修正できるかどうか、というところにある、と言うと言い過ぎだろうか？

　どこかで、僕自身も夏休み気分が抜けないのかもしれない。僕の中学３年の夏休み、吉田拓郎の「夏休み」の入った２枚組ベスト盤を、ホームステレオで来る日も来る日も聞いていた。勉強なんてまったくしなかった。暑かったことだけは覚えている。

2010年8月19日　寺田潤史

モロヘイヤとサトイモ

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