「新しい気候を受け入れて　その２」

　月曜日は１１０ミリを超える雨、二日置いて今日また３３ミリの雨。雨の中を、畑の通路の草むらを歩くと、蛾の大群が飛びあがる。すぐ近くの空芯菜は、蛾の大群がいるというのに、平気な葉をして、また新しい葉を伸ばしている。少しは虫食いもあるけれど、気になるほどでもない。アブラナ科の葉もののない夏からずっと空芯菜は元気だ。旬というものは、こういうことなのだろうな。熱帯化した気候であれば、空芯菜のような少し癖のある葉ものをいただく、それが道理になっていくのだろう。

　日本人というものは贅沢な生き物で、定番からはみ出すことをよしとしない妙な癖を持つ。野菜で言ったら、小松菜とか法蓮草とか、大根などを年中食べたい人が多数で、空芯菜を食す人は少数派である。定番の食材を、相当に根強く支持する代わりに、あまり連続で同じ種類のものを食べたくない、そういった贅沢を当然と思っているのである。僕たちも、無農薬野菜なんて贅沢だ、と昔よく言われたことがあるが、何が贅沢かは考え方、生き方によって変わってくる。節電節電と声高に言う人が、毎日長い時間大音量でテレビを見ていたりするし…。僕たちの立ち位置は、気候や風土に順応して生きていくこと、そんなところなのだが、気候や風土のことをあまり考えない人が多くなってしまったので、やはり僕たちは少数派だ。話があちこち飛んでいるね。

　僕たちの立ち位置が、気候や風土に順応して生きていくことであったとしても、電気はたくさん使うし、自動車で配達もするからガソリンも使う。畑で機械もバンバン使う。畑をやっていて、一番興味深く感じるのは、手で草を取り、鍬で土を動かしている時が気持ちいい、そういうことなんだ。手で草を取っているだけで子供たちを養えるならそれもいいが、需要に応えるべく機械もガソリンも使う、それもまたいい。人の真似をして炭素循環農法もいいが、何も育たなかったこの｢とーと畑｣で、そこそこのものが収穫できるようになったことだけで満足でもある。

　日本人というものは、とにかくパターンつまり型にはめようとする性質がある。型にはめ込んで考えないとおさまりが悪いからか、あるいは集団を乱す元となるのかそれは知らないけれど、型にはまらないものは排斥する性質がある。排斥しても、どこかで認める人がいるから、生殺し状態は容認する。がん治療で言うと丸山ワクチンなどがそれである。医療でいうところの症例、その積み重ねこそが型そのものでもあろう。型が認められると、猛烈な力を発揮するし、結果、人間がそれにひれ伏すようにもなる。だから、年中小松菜やホウレン草がなくてはならないのかもしれない(夏の小松菜なんておいしくないのにね)。人間はもはや、気候風土の上に生きているのではなくて、野菜工場の中に生きているような、そんな時代になりつつあるのだろうか？

　我ながら乱暴な物言いというか、飛躍に過ぎる。石橋をたたいて渡るような、整合性を展開するには、どうにも僕が疲れているようだ。僕たちの立ち位置が気候風土に順応していくこと、それだけでいいのだろう。素手や鍬が好き、それだけでいいのだろう。新しい気候を受け入れる、ということは、型にはめて考えない、ということだ。地道にアイデアと実践を積み重ねることに変わりはないが、継続すればこれも一つの型になるのかな？

2010年9月30日　寺田潤史

レタス類、生長が遅い

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