「田舎に住んで二十一年」

　帰農して、丸二十一年が過ぎた。あと数年で、帰農してからのほうが、帰農する前の年月よりも長くなる。都会生活は、たったの十年である。人生の大半を田舎で過ごしているが、帰農してからは自分を田舎人とは思っていない。田舎の風習が自分には合わない、と思っているからだろうか？田舎には、昔ながらの慣習や行事が残っている。そんなものなくしてしまえ、と思っていたのだが…。

　今年、地元自治会の副自治会長なる役をやらされている。自治会の仕事の役割の半分は、昔からの風習の踏襲である。人が死ぬと、お通夜や葬式の触れを出すが、その配布は大事な役目になる。同じ自治会内に住んでいる面識のない人が死んでも、￥５００を香料として出す。これは不思議なことなのだが、どこの誰かをよく知っている人も多い。新規にこの自治会に引っ越してきた人ならば、ほとんどの人のことはわからないはずだが、￥５００を出すことに変わりはない。

　自治会に女の人がいない。去年は、会計を女性がやっていたが、今年はいない。自治会長や副自治会長にも女性がいない。歴代の自治会長にも当然、女性がいない。つまり、自治会に女性の意見が反映されないのだ。現代において、これは不思議なことである。先日、地元のお祭りがあって、僕も公民館に詰めていた。屋台（山車）を運営するのも男だけ、公民館に集まるのもほとんどが男で、食事の用意だけ女性がやってくれる。子供たちの母親や威勢のよい女性も時として元気にやってくるが、一時的なこと。小学生や中学生の世話は、小学部会（子供会）や中学部会として女性がする。お祭り好きな女性は多いのに、運営に携わる女性が極端に少ないという状況だ。封建性の名残なのであろうか？

　年が明けると、初燈（はつとう）という集まりがある。全戸から一人ずつ出席して、新年のあいさつをして弁当を持って帰る、という儀式だ。今は、自治会総会の役割も兼ねている。これとて、自治会総会だけにして、お金出してまで弁当をもらわなくてもいい、という意見もあるが、それがなかなかそうはいかないらしい。自治会総会だけにすると、委任状だけ出して欠席の嵐になることも予想される。弁当をもらいに行くから出席する、そこで一杯やるのが楽しみ、という初燈のスタイルを気にいっている老人も少なくないようだ。もちろん弁当やお茶やお酒は、地元のお店が関与してくるから、簡単になくすというわけにもいかない。つまり、何から何まで、しがらみだらけで、変えようとしても身動きが取れない、というのが自治会の現状である。

　自治会経験者は、良い人が多い。人がよいということは、あれこれ気をまわして改革はできない、ということにもなる。よく働きはするが、制度自体は古いままである。これが田舎というものなのか？あとから何を言われるかわからない、ご近所みんな知り合いという形、これこそが日本特有の、個性を台無しにする国民性の根底にあるものかもしれない。突出した意見は却下される。お祭りなどの古い文化はそのまま残すべきだが、制度は新しいものに変えて、女性の参加を積極的に促進する、そんな流れになると人間関係も疎遠になってしまうのだろうか？都会を知らなければ、そのこと自体も考えなくてすんだのだろうか？

2010年10月14日　寺田潤史

ニラにはこの気候が最適。

収穫終了した空芯菜の花が咲き始めた。

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