「丸刈りの親父の口癖は」

丸刈りの親父の口癖は
俺は安売りはしない
高値の時に体を張って　遠く沖まで出ていく

若いころは暴れん坊で　いちゃもんつけて金を巻き上げた
お代さまの傘に当たり　車の修理代と巻き上げた

女房はよくできた美人で　長老たちとも渡り合う
娘の見つけた彼氏に　不吉な予感を嗅ぎ取った

丸刈りの親父の口癖は
俺は安売りはしない
高値の時に体を張って　遠く沖まで出ていく

親父の引きうけた仕事は　自動車部品の加工場
バブル景気に先んじて　娘に工場をまかせたよ

漁師になって２０年　娘の旦那の実家が燃えた
親父の寿命がすぐそこに　迫っているとは知らないで

丸刈りの親父の口癖は
俺は安売りはしない
高値の時に体を張って　遠く沖まで出ていく

丸刈りの親父の船に　五歳のシンヤを載せていく
これが俺のやり方だと　カツオの群れを目指す

丸刈りの親父の口癖は
俺は安売りはしない
高値の時に体を張って　遠く沖まで出ていく



　この詩を書くのも、アップするのも勇気がいることでした。丸刈りの親父を自分に引き付けながら、かなり引き離して書いています。精いっぱいの親愛の情を込めました。 詩というものは、書いてしまうと独り歩きします。この詩を書いてから、ああ、僕の親父も似たような側面を持っていたな、と感じました。その人自身が走ることとは関係なく(本当は関係しているのですが）、いろいろなことが周りで起こってきます。その流れを、見ている人もいるんですね。当事者はいつだって当事者ですし、傍観者はいつだって傍観者ですが、当事者や傍観者の区別なく交わることもまた不思議な感覚ですが、現実には多く存在するのですね。僕の書くのは、物語としての詩であり、songsの中のsongとしての詩でしかありませんけれど…。

2010年11月4日　寺田潤史

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