「鶏糞の匂い」

　夕方五時で暗くなる、この頃の気候は、農作業がまだまだ山積みされている僕らにとっては、あわただしさに包まれた気候だ。乾いた畑に井戸水をしみこませ、寒さに鈍った野菜の成長を少しでも促進させようとしている。作付けしていない畑は、乾いた状態で野菜の植え付けを待っている。

　これから、玉葱の植え付けが始まる。今年も全体に植え付けを遅くしている。寒い冬なのか、早い春なのか、きっと両極端な冬になるであろう。ということは、暖かい時にはかなり暖かいと思うので、玉葱の苗の生育は促される、そんな予測だ。それでも、極早生の玉葱の植え付けはちょいと遅い。今週末に植え付ける予定だが、二週間程度の遅れである。１０月が意外に寒かったので、苗の成長も遅かった。植え付けが遅れたなら、それだけ収穫も遅くなるのが極早生の玉葱の特徴である。晩生の玉葱であれば、ほとんど収穫期の差は出ない。生育期間によって、その特性は変わってくるのだ。

　玉葱のほかにも、法蓮草の種を播き、キャベツやブロッコリーなどの植え付け、さらに大根などへの追肥をやらなければいけない。それらの肥料は、すべて堆肥だ。平飼いの鶏糞に籾殻が混ざっている堆肥。この堆肥を野積みしてある。最初はサラサラだが、大雨が降るとドロドロになり、それが乾いてかたまりとなる。これを堆肥散布機で散布するのだが、堆肥散布機を修理したりしている時には、スコップでまく。また、すでに芽が出ているコカブなどや大根の追肥には、機械散布は無理なのでこれまたスコップでまく。サラサラならば堆肥は軽いし、とてもまきやすいが、風で堆肥が舞って全身に浴びることもある。塊になっていると、これまたやっかいである。匂いが強烈になっていて、堆肥をまくにも均一にまくことが難しくなるからだ。

　堆肥というものは、最初のサラサラの状態は未熟な状態である。正確に言えば、１年前の鶏の糞と１か月前の鶏の糞が混ざっている状態だ。未熟であることはパワーを秘めているということにもなるが、土の中に入れるとガスの発生率が高くなる。反対に熟成した堆肥であれば、土の中に入れてもガスの発生率は低く、チッソ成分も適度に抑えられて良い感じだが、パワーはなくなってくる。塊の状態というのは、その中間の状態と言っていいかもしれない。しかし、匂いである。人間にとって、匂いは、特にウンチの匂いは気になる存在である。

　平飼いの鶏のウンチは、人間のウンチよりはましな代物である。匂いも人間の方が臭い。しかし、鶏糞も集まってガスが放出されているような時は、やっぱり臭い。食事時には、みんなこの臭いを嗅ぎたくないであろう。そうなると、僕たちも堆肥の散布時間を考える。だから、必然的にいつも午後になるし、夕方近くなって、あっという間に日が暮れる、ということにもなるのだ。仕事が立て込んでいれば、堆肥の散布時間に縛られてばかりもいられない。苦情覚悟で、今日も朝からまいた。それでも、お昼時はやはり避けた。畑のすぐ東隣の工場には、同級生も、自治会の先輩も働いているのである。むむ…、気を使い過ぎかな？

2010年11月18日　寺田潤史

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