「ひ弱な実態とコンテンツ」

　先週、｢１６回目の結婚記念日｣を書いたその午後、朝方までの大雨に続いて、３時ごろまた大雨が降ってきた。今度は寒風を伴っての大雨だ。しかも強風。その強風のせいか、まもなく納屋の電気が消えた。停電だ。納屋のパソコンは、母屋でブレーカーが上がっても電気が落ちないように、冷蔵庫の小屋から電気を引っ張ってきて使用している。しかし、今回は、この地域全体の停電だった。

　出荷の真っ最中だった。集荷の時には、収穫作業と並行しながら、調整されて洗われた野菜を仕分けする作業をする。電子秤で計測された値を、ＰＣで打ち込んでいく。午後４時にヤマト運輸を手配してあり、半分は仕分け作業も終わっていたのだが、停電してから４０分してようやく電気が復旧した。３０分以上たっても復旧しなかったので、ヤマト運輸に電話して５時以降の集荷に変更をお願いした。突然電気が止まったのだから、エクセルに入力した値はすべて泡となってしまってもおかしくはない。が、自動保存されていた。助かった。

　新聞紙に包まれた野菜を、もう一度一つ一つ計測し直してデータ入力していく、という作業はしないで済んだ。何と、現代生活のひ弱なことよ。電気がこなくなるだけで、仕事はパニックに陥ってしまう。無停電電源装置が必要なのか、それとも電気がなくても仕事がこなせるようにしておくべきか、難しいところである。昔は、１０年前までは、すべて手書きで野菜の重さを伝票に書き込んでいた。計算は頭の中のそろばんがやってくれたからよかったが、書き込んだ伝票はお客さんの手元に行ってしまうので、データは合計金額しか残らなかった。

　親父が死んでから、マックのコンピューターがうちにやってきて、それからまもなくＰＣを入れた。最初に手をつけたのは、データの入力である。データを入力さえすれば、すぐに週刊てーて付きの伝票を印刷できる状態にした。これには兄貴の尽力が大きかった。それから、湯治に行ったときに、データベースを作成した。エクセルのデータをアクセスへ取り込み、どの野菜がどれだけの量、どこへ出荷されたかがわかるようになった。以来、ＰＣがなくては、出荷ができないようになった。おまけに、インターネット販売をするようになって、ヤマト運輸がＢ２というソフトを開発してきた。宛先の入力まで省力し、配送伝票もすべてＰＣで印刷するようになった。

　それが、この停電では全く使えない。これがひ弱な実態である。いざとなったら手書きするほかはないのだが、この時代はもはや後戻りすることのできないくらいＰＣに頼り切った時代だとも言える。音楽の録音だって、ＰＣの出現で信じられないほどの高音質が手に入るようになった。もはやＰＣなしは考えられないのだ。だけど、演奏するのは、この手であるし、歌うのは人間である。人間ではない唄声も流行になってきてはいるが、感情を伝えるのは人間の得意技である。野菜だって、ＰＣで作ることはできない。コンテンツ自体は、人間の手の中にあるのだ。野菜を植えるのも機械がやることが多くなったが、泥だらけの手を洗う日々はなくならない。機械ではできないことが圧倒的に多いのだ。コンテンツすなわち内容は、対象そのものである。対象である野菜や音楽は確かなもので、人間の手に委ねられている。

2010年12月9日　寺田潤史

粘土質の玉葱畝に混ざっている砂だけが流出し、小石が表面に取り残されている

植え付けられたばかりの玉葱の苗は、大雨で畝の一部が流されてしまった。

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