業務日誌(2003年6月その1)

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6月9日 一方的値上げと解約の制限

 偶然見つけたニュースですが、毎日の記事によると、
 料金を3倍に値上げします。問い合わせには応じません――。広島県東広島市のインターネット接続業者が今月に入って、年間料金を今月から3倍に上げる通知を電子メールで利用者に送り、同市消費生活課に苦情が相次いでいる。
とのこと。

 契約は年間契約で、約款上は約款の解約規定によると、途中解約はできず、更新したくない場合は満了月の3カ月前までに申し出ると定めているそうです。この規定に従うと、昨年7月に契約した利用者は、今年7月以降も新料金で1年間使用しなければならないことになりかねません。ひどい話です。

 ところでこの記事中では、広島県弁護士会の弁護士の談話として、「約款が無効かどうか慎重に検討しないと判断できない」とありますが、私の意見はちょっと違います。

 約款上、一方的に値上げできることになっていて、確かにこの点を無効と主張する(値上げを撤回させる)のはなかなか困難でしょうが、だったら解約はどうか。

 【消費者契約法】第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分


 1年間、中途解約ができず、更新も3ヶ月前まででないといけないというのは、3ヶ月分から1年分の料金を「解除に伴う損害賠償の額と予定する」ことと定めていると解されます。当該事業者として、プロバイダ契約の解除により、1年分の損害が生ずるなどとは考えられませんから、この約款は少なくとも消費者契約法9条1項に違反し無効である可能性はあるのではないでしょうか?




6月7日 週報

 業務日誌といいながら、自分の業務のことを何も書かずに1週間来てしまいましたので、まとめて総括。

・6月2日
 夕方にとある刑事事件の関係の現場を見に行く。
 実は現在の自宅の近くだったので、そのまま歩いて帰りました………と思ったら、思ったより遠く、延べ1時間くらいウォーキングしてしまいました(^^;

・6月3日
 弁護士会や派閥関係で加入しているメーリングリストの不良在庫が溜まりまくって、気がついたらついに未読が700通にも達してしまいました。
 いくら何でもこれではOutlookが機能不全なので、幸いこの日は少し時間があったので、暇さえあればメールの消化。ようやく500を切るところまで行きました(その後7日にようやく未読ゼロ達成。長かった………)。

・6月4日
 この日は何度も業務日誌上でぼやいている(これこれこれこれ)奈良出張の日のはずでしたが、期日1週間前に裁判所から電話があり、何と電話会議に変更されました。
 なんだぁ、やろうと思えば可能なんじゃない!今までは何だったんだ。
 結果として、相被告のうち、東京だがメインの被告代理人は奈良地裁に出頭、金沢の相被告代理人はこれまでどおりビデオ会議、そこに私が電話でさらに割り込むという形で、さすがに音声等が交錯してなかなか進行に手間取りはしましたが、なんだかわからない15分の手続きのために往復7時間かけて奈良まで行くよりはよっぽどいい。

・6月5日
 この日は夕方から入学金・授業料弁護団の弁護団会議。
 会議の終わりころになって、前回出した準備書面の中身の一つの文章がどうも趣旨不明であるような気がしてきました(相手からも求釈明されているし)。二通りに意味が取れる日本語になってしまっているのです。起案担当者でなければ最後のところはわからないのですが、あいにくこの日はその担当者が欠席。事務所まで電話をかけて追求(?)しました。………ところが、「○○○って書いてるけどどういう意味?」「ええっ俺そんなこと書いてないよ!?」………どうも、この担当者を含め3人くらいで深夜に集まってああでもない、こうでもないと最終調整をしていた段階で、なぜか挿入されてしまった一文らしく、だれもその趣旨を覚えていない始末(^^;
 それはいいが、求釈明に答えなければならない私の立場は?

・6月6日
 引っ越し以来、初めて辰巳国際水泳場に泳ぎに行きました。以前は自宅がこの近くだったので、泳いだ後に一杯やって(だから痩せない(^^;)気楽にタクシーで帰れたのですが、引っ越して遠くなってしまったので大人しく電車を乗り継いで帰りました。ってこれ仕事じゃないですね。

・6月7日
 本日は日弁連主催の「市民の法教育シンポジウム」に行ってきました。このシンポは地方会の弁護士の熱意がすごく、私はほとんど傍観者でしたので、当日は裏方で照明係(^^;でしたが、日弁連も法教育委員会を作るそうですし、法教育もずいぶんメジャーになってしまいました。





6月4日 裁判の迅速化は強制できるのか(3)

 なかなか毎日更新できませんが、6月1日の日誌に続いています。

 審理計画の導入は、迅速な裁判につながるのか?

 ま、簡単に言って、2年以内に終わる計画を立てて、無理矢理裁判所がその計画通り進めれば、迅速な審理終結にはなるでしょう。

 しかし、それが正しい裁判になるかというと、全く別です。

 先日の朝日新聞には、「計画審理」を先取りした裁判官が取り上げられていましたが、私の参加している入学金・授業料問題東京弁護団が東京地裁に提訴している事件のうち、まさにその裁判官が裁判長を務める合議体の事件があります。この事件を見る限り、現時点では計画審理のマイナス面が出てしまっているなあという印象が否めません。

 というのは、最初に判決期日までの予定を組んでしまった後は、原告と被告の主張がかみ合っていないことは明らかであるのに、裁判所が必要な交通整理もせず、ただ予定を守らせることにのみ執着しているとしか思えない訴訟指揮が目立つからです。これでは判決が出された場合、どのような判決にせよ、双方が納得するようなものになるかどうか不安が残ると言わざるを得ません。

 裁判所は、紛争に対し、ただ判断を下せばいいと言うものではなく、裁判所の判断を通じて当事者を説得し、紛争を解決するという役割を負っています。そのような役割を放擲する「計画審理」であれば、司法機能の強化に逆行するものとなってしまうでしょう。




6月1日 裁判の迅速化は強制できるのか(2)

 一昨日の日誌の続きです。

 どうしたら迅速な裁判が可能になるか?

 先日の朝日新聞の記事は、打開策として、

1 裁判官を増員
2 審理計画を事前に策定
3 事前の証拠開示制度を導入

 を挙げています。

 1は、ずっと前から日弁連が主張していることですが、当然のことながら、最高裁は非常に消極的です。お財布を握る財務省はもっと消極的かも。

 確かに、裁判官の数が同じでも、効率的な運用により、迅速な裁判が可能になる可能性もあります。

 例えば、東京地裁の破産事件の運用。東京地裁の破産部は、前部長の時代に運用が大幅に改革され、それまで1,2年かかるのが当たり前だった破産事件の処理を、3ヶ月から6ヶ月程度で終了させるのが当たり前、といった事態になりました。

 これは大変な進歩でしょう。裁判所もやればできる!と言いたいところですが、実はこの成果にはからくりがあります。破産事件を実際に管理し処理するのは、破産管財人たる弁護士です。東京地裁の改革は、従来この管財人に、微に入り細に入り細かく報告書を書かせ、注文をつけてきた裁判所が、細かい指揮をやめ、管財人にいわば「丸投げ」するかわり、期限を短くしたのです。お役所仕事から民活を導入したようなものです。

 つまり、破産事件の短期処理化の成功の裏には、管財人たる弁護士側の協力があったのです。その証拠に、弁護士会の力が伝統的に強く、裁判所が主導権を取って改革に踏み切れない埼玉県では、いまだに旧来型の破産事件処理が全く変わらず行われており、東京とは別な国かと思うほどです。

 残念ながら、一般の事件は、こうはうまくいかないでしょう。なぜなら、一般の事件では、裁判所は許認可をする「お役所」ではなく、まさに実質的判断を問われているのであり、誰かに判断を丸投げするわけにはいかない以上、裁判官一人が処理しきれる事件には自ずから限界があるからです。

 また、弁護士にとって、破産管財事件は「公務」であり、裁判所がクライアントともいえるのですから、裁判所が迅速第一を要請すれば、それにできる限り協力しようという強力なモチベーションが働きますが、通常の裁判では、クライアントの意思とは関係なく迅速化に協力しようという弁護士はいないといってもいいでしょう。これはクライアントの利益のために動く弁護士の立場上、当然の帰結です。

 日本の裁判官は、いったいどのくらい事件を同時に扱っているか、ご存じでしょうか?東京の民事部の裁判官だと、常時300から500の事件を扱っていると聞いています。これでは、聖徳太子でもない限り、個々の事件の個性など全く記憶に残らず、いい加減な処理に走りがちとしても当然と思えます。

 個人的には、個々の事件についてイメージが持てるのは、どんなに多くても100以下、できれば50以下でしょう。手持ち事件がそのくらいの数まで減れば、裁判所の都合で期日が入りにくいことも少なくなり、個々の事件について充実した審理を行いつつ、迅速な裁判が可能になるのではないでしょうか。

 長くなりましたので、2以降はまた追って。