和歌と俳句

古今和歌集

雑躰歌

葦引の山田のそほづ おのれさへ我をほしといふ うれはしきこと

きのめのと
富士の嶺のならぬおもひにもえばもえ 神だにけたぬむなし煙を

きのありとも
あひ見まく星は数なくありながら 人につきなみまどひこそすれ

小野小町
人にあはむ月のなきには 思ひおきて胸はしり火に心やけをり

藤原おきかぜ
春霞たなびく野辺の若菜にもなりみてしがな 人もつむやと

おもへどもなほうとまれぬ 春霞かからぬ山もあらじとおもへば

平貞文
春の野のしげき草葉の妻恋ひに 飛び立つ雉のほろろとぞなく

きのよしひと
秋の野に妻なき鹿の 年をへて なぞわが恋のかひよとぞなく

みつね
蝉の羽のひとへにうすき夏衣 なればよりなむものにやはあらぬ

ただみね
隠れ沼のしたよりおふるねぬなはの ねぬなは立てじ くるないとひそ

ことならば思はすとやは言ひはてぬ なぞ世の中の玉だすきなる

おもふてふ人の心のくまごとに たちかくれつつ見るよしもがな

思へども思はずとのみいふなれば いなや思はじ 思ふかひなし

我をのみ思ふといははあるべきを いでや 心はおほぬさにして

われを思ふ人をおもはぬむくいにや わが思ふ人の我をおもはぬ

思ひけむ人をぞともにおもはまし まさしや むくいなかりけりやは

いでてゆかむ人をとどめむよしなきに となりの方に鼻もひぬかな

紅にそめし心もたのまれず 人をあくにはうつるてふなり

いとはるるわが身は春の駒なれや のかひがてらに放ちすてつる

鶯のこぞのやどりのふるすとや 我には人のつれなかるらむ