業務日誌(2002年9月その3)

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9月30日 国選弁護の報酬(2)

 さて25日の日誌の続きです。

 国選弁護の報酬が安すぎるのではないか、という根拠はほかにもあります。

 例えば裁判所から任命される破産管財人の報酬。

 東京地裁から始まり、各地に広がりを見せている少額破産管財制度における管財人の報酬の最低保証額は20万円です。

 はっきり言って、あまり資産のない個人商店的法人や個人の破産管財業務の量は、争いのない国選弁護の業務と変わるところはないのではないかと思います。

 それなのに一方は20万円で一方は8万円では、差がありすぎるというものではないでしょうか。

 さて、このような反論も考えられるでしょう。
「悪い奴を弁護するのに税金が使われること自体おかしい」

 最高裁も、国選弁護報酬の引き上げを要求する日弁連に対し「刑事被告人にこれ以上税金をつぎ込むことには国民の理解が得られない」という反論をよくするそうです。

 でもこれはちょっとおかしいのではないでしょうか。(なぜおかしいのかは次回に続く)




9月27日 雑感(関弁連大会、事務所LANその後)

 まだ先週の体調不良の後遺症を引きずっている状態ですが、行事が詰まって通常業務がなかなかはかどりません(^^;

(その1)

 つくばで開かれた関弁連(関東弁護士連合会)の大会に行ってきました。

 今まで関弁連の大会なぞには顔を出したこともなかったのですが、今回は例の日弁連法教育ワーキンググループの会議が同じ日につくばで開かれるというので、仕方なく参加です。

 何で日弁連の会議をこんな場所でやるかというと、関弁連の今年のテーマが「法教育」なんだからだと。ふーん、知らなかった。シンポに出てみると、なかなか盛況で、スタッフの弁護士方も相当気合いが入っており、アメリカまで視察に行って来て本にもまとめたそうです(現代人文社から出版されてました)。

 まあこの関弁連の研究成果をふまえて日弁連ワーキンググループを始めたかったとのことらしい。

 それにしても「法教育」とはなじみのない言葉ですが、「司法教育」や「人権教育」とは異なり、アメリカで行われているものの中身は「市民教育」「民主主義教育」とでもいうべきものです。

 例えば幼稚園児に「ブランコで遊びたい人の並び方はどうするのがよいのか」を討論させる、ということから始まるらしい。列を作るべきだとか、割り込みはいけないだとか、先着順かじゃんけんがいいのかとか、そういった内容です。

 日本の「道徳教育」に似ていますが、「道徳」が「ルール」を所与のものとして「ルールは守るべきもの」という教え方をするのに対し、「法教育」は「どうやってルールをつくるのか」という部分から考えさせることに特色があります。ここに民主主義の基本たる「手続きの保障」という発想があるようです。

 ………それにしても、つくばには万博以来初めて行きましたが、原チャリに乗る高校生が多いのには参った。乗ること自体をとやかく言っているのではないが、何でみんなノーヘルなのか?命が惜しくないのかな?

(その2)

 で、つくばから事務所に帰ってきたら、ようやくルータが新品になって戻ってきていました。ところがまたまたT30のみつながらないらしい。

 そこで事務局が帰ってしまった後、またまたにわかシステムエンジニアと化して悪戦苦闘することに。結局T30にプリインストールされたIBMのソフト(AccessConnection)のセキュリティ設定で、ファイルの共有がストップされているという単純なミスに気がつくまでに1時間かかってしまった。トホホ。




9月25日 国選弁護の報酬(1)

 東京弁護士会では、池袋に続き、刑事事件専門の公設事務所を構想しているとか。

 しかしながら、国選弁護事件を中心に受任することを前提に採算性を試算してみたところ、年間5000万円の赤字だそうです。いくら何でも道路公団じゃあるまいし、こんな事務所には賛成できません。

 この議論にはおまけがあって、この試算は現行の国選事件報酬(地裁で公判2,3回の簡単な自白事件で8万円前後)が前提だが、国選事件報酬が30万円になれば採算が取れるそうです。

 要は、国選弁護報酬はやはり低すぎる、と。

 1件8万円、という金額は、みなさんはどう思われるでしょうか?8万円と言えば、ごく普通のサラリーマン家庭の1週間から10日間程度の生活費でしょうから、この金額が安いなんて、弁護士の金銭感覚は狂っている!と言うお叱りを受けるかも知れません。

 そうかもしれません。弁護士費用というものはやはり、絶対的には結構高いものです。

 しかし、現在のように健康保険制度が普及する前には医者の費用も相当高いものでした。弁護士について、健康保険制度に対応するものがない限り、費用がそれなりの高さになってしまうのは仕方がないのではないかと思います。

 例えば、同じような刑事事件を私選で受任した場合、私であれば(事案によりますが)着手金として15万から30万円程度、成功報酬として30万円程度はお願いすることになろうかと思います。

 最大60万円と8万円、弁護士にとってやはりこの差は大きい。

 「60万円とは高い!」というお叱りもあるとは思いますが、刑事事件は民事事件に比べ、短期間に集中的に時間を取られるため、弁護士の方も他の業務を相当犠牲にする必要があります。ですからこちらとしても簡単にダンピングはできるものではありません。

 物議を醸しそうなお話になってきましたが、後日に続きを。




9月23日 情報のコントロール

 弁護士の力量というのは、いかに相手方や依頼者を説得できるかにかかっている部分があります。

 特に個人や小規模企業のオーナー社長の依頼者をどう説得するか。ボス弁が新人のイソ弁(居候弁護士=勤務弁護士)に得意げに伝授する「ノウハウ」も、この説得術である場合が多いようです。

 この説得術にも果ては義理人情論や利益誘導論など、別に弁護士でなければできないようなものではないノウハウが相当あるような気もしますが、結構多く見られるのが「情報のコントロール」による説得術です。

 要は、ある結論に向かって依頼者を説得する際に、手持ちの情報を取捨選択して、例えば最初に不利な方の情報から説明をし、有利な情報は意図的に後出しにして説得をすると言う手法です。

 ただ、これは「弁護士さんにすべてお任せします」という依頼者が多かった時代の名残のような気もします。一歩間違えると「自分の弁護士に騙された」と後で依頼者の恨みを買いかねません。相手方に対してはともかく、依頼者に情報を意図的に隠すのは私はあまり好みません。

 特に、手持ちの情報自体少ない場合には、むしろ手持ちの情報をすべてさらけ出して、依頼者と一緒に考える、と言う姿勢を見せないと、かえって不信感を募らせる(あとあと、すべて情報を開示しても「まだあるのではないか」と疑われる)のではないかと思います。

 こんなことを書いているのは、例の外務省の拉致被害者家族への情報公開の件を見てるからですね。これはまさに、手持ちの情報の絶対量が少なすぎるのですから、確認済みであろうと未確認であろうととにかく全部伝えないことには始まらない。少ない情報の一部を隠しても、何の効果もないのではないかと思います。それをなぜか伏せてしまったために、事態がよけいこじれているのではないでしょうか(ひょっとしたらまだ何か情報があるのかも知れませんが)。

 もっとも、外務省当局は、拉致被害者の家族を「依頼者」などとは考えていないのかも知れませんが。