業務日誌(2004年5月その2)

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5月28日 タコツボ裁判所(1)


 前回に破産の話をしましたが、現行破産法に絡むお話。

 私が現在管財人を務めているとある個人破産事件で、訴訟提起をして金銭の回収をしなければならないことになりました。

 管財人が民事訴訟を起こすには、裁判所から提訴の許可を得て提起します。提訴の許可自体は何の問題もなく下りる事案でした。

 しかし、問題は、現在この事件の破産財団残高(管財人口座の預金残高)はゼロで、提訴しようにも印紙代すら出せないことです。東京地裁破産部(民事20部)では、会社と代表者とか、夫婦であるとか、ペアで破産申立が行われた場合、どれか一つの手続について最低限の予納金が用意できれば、残りは予納金ゼロで、管財人を選任する運用を行っていますので、このような事態が生じるわけです。

 そこで民事20部では、このような場合のために予め、「無資力証明」用紙を用意しており、管財人が管財人口座の預金通帳の写しとともに申請すれば、無資力証明がもらえることになっています。この無資力証明、何のために使うかというと、民事訴訟法上、資力がない場合に印紙代を猶予してもらう「訴訟救助」の申立の添付資料に使うわけです。

 と・こ・ろ・が。

 今回、訴訟救助の申立とともに当該事件が配転された民事部の書記官から、突然私に電話があり、「裁判所に一度出頭しろ」とのこと。

 提訴直後に書記官の指示で、訴状のミスをなおさせられたりすることは、ままあることですが、普通は電話で指示を受ければすむ話で、いきなり「出てこい!」とは尋常ではありません。何事かとびっくりして理由を聞くと、「訴訟救助の申立で、無資力の証明が足りない」という理由らしいです。

 普通の自然人や法人の訴訟救助の場合、その人や会社に本当に資力がないのかの判断は結構難しい(財産がないないと言っていても、実は隠している人は存在する)ため、裁判所が慎重になるのはわからないではありません。しかしながら、管財人が起こす裁判の場合、実際の原告は「破産財団」ですから、その現在の財産の全貌は管財人口座の残高以外にはあり得ません(管財人が横領しちゃったりしてれば別でしょうが(^^;)。しかも当該破産事件について、一番よく把握している破産部が管財人口座の残高を確認して無資力証明を出しているのです。

 ???この民事部はいったい何を考えているのでしょう。

(長くなったので次回に続きます)




5月26日 破産法の改正

 が国会で成立したようです。

 めぼしいところで、大きな改正点は、第1に「破産宣告」という用語自体法文から消えてしまったこと。「破産手続開始決定」という名前に変わりました。

 これは民事再生法上の「民事再生手続開始決定」と呼称を統一した、という触れ込みですが、何かサンクションを感じさせる「宣告」から、うしろめたいイメージをできるだけカットしようとした意図があるのでしょう。

 第2に、破産手続中の強制執行の包括的禁止の制度や免責手続き中の個別執行禁止の制度ができたことです。特に後者は、給与差押えの回避のためだけに同時廃止(管財人をつけない破産手続)ではなく、少額管財を選択していた事例にとっては、管財人費用の分だけ費用負担が少なく免責決定が得られるため、大きな前進だと言えます。

 第3に、再度の免責が得られるまでの期間が10年から7年に短縮されたことです。実は、一度破産宣告を受けながら、またしても多重債務に陥ってしまう方は結構います。まあ何度も免責決定を当てにするのはそれ自体、「モラルハザード」との批判もあてはまるのでしょうが、一度破産宣告を受けても、5、6年経つとけっこう大手のサラ金からまた借りられちゃうんですよね。この与信管理はどうなってるんでしょう、と言いたいところです。




5月24日 法科大学院の大風呂敷

 という見出しの特集が日経新聞で組まれていました。

 ふむふむ、法科大学院出身者の司法試験合格率が7−8割という当初のスローガンは大嘘で、将来合格率は1割台後半に落ちる可能性もあると。

 自慢じゃないですが、私が前から言ってるのと同じですよねぇ。

 そもそも新司法試験の合格者の予定数が3000人なのに、6000人分もの法科大学院を認可してしまった時点でこのような結論は出ていたわけで、ちょっと計算すれば、合格率が2割前後になることはすぐにわかるはずです。それを、最近まで明確に誰も指摘しなかったというのは一種の詐欺でしょう。

 しかし、逆に言えば、司法試験を受けるくらいの方ならそれくらいの予想はつくはず。こんなことで「詐欺だ!」なんて騒いでいるようでは、自分の能力が疑問視されますよ。

 あえて私が冷たいことを言うのは、これから増える競争相手を蹴落としておきたい防衛心なのかもしれませんが(笑)、これまでのように法曹資格=安泰という時代はもう来ないのは確かです。お互い、努力するしかないわけですから頑張りましょう。その上で、同業者として仲良く苦楽をともにしていけたらと思います。




5月21日 凹凹凹

松乃温泉
 1月の日誌で書いた再生申立事件も佳境に入り、債権者集会の日程が決まるところまで来ましたが、ここに来て細かなミスが連発で、一つのミスをクリアすると別なミスを見つけてしまうという連鎖反応でちょっと凹み気味です。
 まあ何とか致命傷にはならずに手続自体は進んでいますが、スケジュールとの戦いなだけに、最後まで気が抜けないなあというのが実感です。

裁判員法案が成立、平成21年春までに施行
 内容的に完璧なものとは思えませんが、キャリア裁判官による空洞化した刑事司法に風穴を開けるかも知れない第一歩であることは事実です。インフラ整備が課題ですが、まずは全国の裁判所の法廷を大改造して裁判員席を設置、傍聴席も2倍ずつにしたらどうでしょうか。





5月19日 公益活動の値段

 ずっと前の日誌で書いたままでしたが、東京弁護士会もいよいよ公益活動が義務化され、何の公益活動も行っていない会員(弁護士)は、年5万円の罰金を支払うことになりました。

 「公益活動」って何?と思われる方もいらっしゃると思いますが、国選弁護、当番弁護等の公益性の高い業務から、委員会活動等の「会務」まで、何か一つやれば何でもいいそうです。以前に論議されていた「ポイント制」からは大幅に緩和されました。

 おまけに罰金が「5万円」というのは低すぎる感も。これは渉外弁護士の1〜2時間分のタイムチャージでしょうから、公益活動するくらいなら5万円払いますよ、という弁護士が多いのではないでしょうか?

 ………と思っていたら、意外にもけっこう初めて委員会に登録する人も多いらしいです。やはり渉外弁護士といえども体面は気にするのですかね。でも、委員会の会議に名前だけ書きに来て、すぐ帰ってしまう人だけ増えそうな危惧も。




5月16日 MLのルール

 もうずいぶん前に弁護士業界メーリングリストの普及について書きましたが、東京弁護士会の最大派閥である法友会(会員約2000名強)でも、今年度執行部の音頭でメーリングリストが開始されました。

 しかし、若手から70代以上の御大まで成員がいる派閥でのメーリングリストですので、けっこうルール作りが大変なようです。というか、うるさい。

 単に世代間の意見の違いなら意見自体を戦わせればよいのですが、「このような投稿はメーリングリストにはふさわしくない」というような上の方の投稿(お達し?)から始まって、特定の方の投稿にレスをつける際に「○○様」と宛名を書いて本文を始めただけなのに、勘違いしたベテランの先生から「個人宛のメールをメーリングリストに投稿するのは迷惑だ」とかクレームがついたり。最近は、管理者の先生が突然「フンドシ型引用(レス元のメール本文を何ら編集せずにそのままぶら下げて投稿すること)はやめよう」キャンペーンを始めています。

 確かに延々と続く引用は顰蹙ものではありますが、問題はそのようなキャンペーンを始めたきっかけが、メーリングリスト投稿メールを全部プリントアウトして読んでいる先生から「紙の無駄になる」とクレームが付いたから、ということらしいこと。プリントアウトされることを前提にメールを書け、といわれても2ちゃんねる世代が言うことを聞きますかねえ。