業務日誌(2005年5月その2)

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5月30日 公示送達までの長い道のり(2)

 昨年も同じころに同じような日誌を書いたのですが、またまた民事訴訟の訴状送達のお話です。

 またまたヤミ金君に訴えを起こす必要があって、起こしたのですが、送達先住所にヤミ金君が居住していると思われるにもかかわらず(住民票もしっかりここにあります)、送達ができません。なぜか、郵便屋さんが「転居先不明」ということで持って帰ってきてしまうそうです。

 依頼者の方に現地を調査してもらうと、雑居ビルの集合ポストの表札は、もともとのヤミ金の屋号ではなくて、得体の知れない謎の会社名に変わっていましたが、よく見ると、ポストにしっかり「○○宛の郵便物はここへ」という貼り紙がしてあります。「○○」とは、言わずと知れたヤミ金君会社の代表者ご本人の名前です。

 なーんだ、やっぱり居るんじゃないですか。というわけで、その旨を上申書にして、ポストの写真とともに裁判所に再送達を申請しました。

 しかし、またしても送達ができなかったそうです。どうして??と思い、裁判所に根掘り葉掘り聞いてみましたが、その結果は驚くべき内容でした。

 郵便屋さんの報告によると、「この住所地にいた人は『この会社は存在しない。存在しない会社宛の書類など受け取れない』という一点張りであったため、送達ができない」とのことだそうです。

 あのー、どう考えても、そんな屁理屈をこねている本人が、この会社の代表者ご本人に決まってるじゃないですか(赤の他人なら、そんな変な言い訳しません)………それを真に受けて帰ってきちゃう郵便屋っていったい。。。

 そもそも、送達に関しては、民事訴訟法で、

【民事訴訟法98条1項】送達は、特別の定めがある場合を除き、職権でする。

【同99条2項】郵便による送達にあっては、郵便の業務に従事する者を送達をする公務員とする。


と定められています。

 つまり、訴状の送達をする責任を負っているのは裁判所であり、また郵便で送達をする場合は、郵便屋さんが裁判所の送達業務を行う担当公務員であるということです。それにしてはあまりに無責任ではないでしょうかね。あまりの事態に書記官と大喧嘩してしまいましたが。




5月28日 取り違え判決

両親と血のつながりない男性に取り違え認定 東京地裁

 DNA鑑定で親子関係不存在、持っているへその緒は一致だとすれば、へその緒がとれるまでの産院入院時期に取り違えがあったという、至極当然の三段論法で、判決は当然でしょう。「あってはならないこと」というコメントも当然。

 しかし、問題なのはそれからです。

 自分の出自を知りたいというご本人の痛切な願いは察するに余りあります。しかし、そのために他人のプライバシーを犠牲にしてご本人に関係資料を開示すべきか、という点は、ご本人の人権と他人の人権が鋭く衝突する、本当に悩ましい場面といえるでしょう。

 この問題、出生届の不受理を巡って問題になっている代理母出産の場面でも発生します。自分の生みの母を知りたいという子供の願いと、必ずしも代理母であることを知られたいとは思っていない代理母の人権のどちらを優先するのか、簡単に答えのでない問題です。

 石原都知事のように、後先考えずに勇気だけで行動できるなら簡単なのですがね。




5月27日 価格.comの言い訳

  不正アクセスによりウイルスばらまきの苗床になってしまった価格.comですが、標的にされた不運さはともかく、その後の対応には疑問が残ります。

 「インターネット関連企業として“最高のセキュリティ対策”を施していた」 「過失はない」といいながら、攻撃を受けた原因、不正アクセスの詳細、対策、いずれも「他のサイトへの攻撃につながりかねず、警察の捜査にも支障をきたすおそれがある」と、公表を拒否。これでは「過失がない」と一人で吠えているにすぎず、誰も納得させられないでしょう。

 悪しき前例を早速まねする動きが出てきたようで、OZmallも同じ言い訳ですね。

 これですむなら、コンプライアンスなんてことに頭を使う必要もなくなり、私ども弁護士も大変楽です。




5月25日 弁護修習民事模擬裁判(また)

 しばらく日誌更新をコンスタントにできていましたが、またまた間が開いてしまいました。

 本日のこのイベントとかで、今週はもうほとんど仕事になりません。昨年はちょっとお休みでしたが、2002年2003年に続いて今年も修習生の幹事役で、民事模擬裁判の代理人顧問役を務め、本日本番でした。

 2年ぶりに担当して思うのは、「自分が一日尋問を行う方が、教え子の尋問を一日見物するよりよっぽど疲れない」ということでした。いやいや、裁判所の傍聴席の椅子があまりにもプアでお尻が痛くなるせいかもしれませんが。

 けっこう修習生の方も努力の跡が見えて、主尋問ではなかなか味のある尋問もみせてくれたりもしますが、反対尋問になると、やはり苦戦して、最後には証人役を務める弁護士の方がたいてい上手で振り切られてしまいます。まあ、修習生時代の尋問などというのは、指導教官からけなされるためにあるようなものですから、これをバネに奮起していただければいいわけですがね。




5月17日 台東寮相談

初夏の長瀞 本日、夜7時から台東寮の法律相談に行ってきました。

 台東寮というのは、東京都と特別区が開設した路上生活者自立支援施設の一つで、上野駅近くの都有地に建てられたプレハブの建物に就労意欲のある路上生活者が入寮して、就職までの間滞在できる施設です。

 ホームレスになってしまう方は、その直前には必ずと言っていいほどサラ金等で借金を抱え、これが支払えず、最後は家賃も払えなくなって追い出され、住居を失うという典型的なパターンを辿ります。従って、法的には債務を抱えたままの状態であり、再び就労してアパートも借りることができるようになり、住民票を移転すると、最初にくるのはサラ金の督促だったりします。これでは立ち直ろうにも立ち直れないので、この法律相談が始められたそうです(私は今年度からいつの間にか相談担当になっていました)。

 実際には、言うは易く行うは………の格言のとおりで、施設滞在者は当然一文無し同然の方であり、資力はゼロ、定住所も収入もなく、就労予定のため生活保護受給者でもないですから法律扶助協会も使えません。この状態で弁護士が受任するとしたら、「後払いのあるとき払い」となってしまい、数ある法律相談の中でも最もボランティア度の高そうなものでしょう。

 ただ、相談を受けてみると、多くの場合時効が成立していたりして、弁護士が緊急に走り回る必要のある事件は少ないようで、むしろ相談者の心理的バックアップの側面が大きい気がしました。